松延 純一 先生

~生きる力 心身ともに逞しい子どもを目指して~第6回 まとめ編

平成22年4月5日

この講座を担当させて頂くのも今回で最後となりましたが、私自身「生きる力」とは何か?「心身ともに逞しい子」へと導く為に、子ども達に何が必要なのか? 自分がどう関わるべきか?と、改めて考えさせられる機会となり、本当に良い経験をさせて頂きました。私自身、教師としても父親としても、まだまだ未熟な面も多く不十分です。今更ながら、この講座を担当させて頂くに値するかも疑問ですが・・・。

しかしながら、私が幼児の指導に12年間携わった中で最も重要だと感じるのが“心”の教育であり、「生きる力 心身ともに逞しい子どもを目指して」をテーマにしたのも、幼児期のお子様をお持ちの方々に、私の考えや幼稚園での取組みをお伝えし、少しでも子育てにお役立てて頂ければとの思いでお受け致しました。

「我慢出来ないのが 子ども」「努力なんか大きくなってすれば良い」まだ幼い子ども達に 我慢・辛抱・努力と言えば半信半疑の方や、指摘をされる方もおられるかもしれません。これまで述べましたように、子ども達は園生活の様々な活動、特に体操教室活動を通して、我慢・辛抱・努力が必要とされる場面があり、その積み重ねによって精神力が身に付き“心”が逞しく成長します。これこそが、人として“生きる力”だと思います。「三つ子の魂 百まで」という言葉がありますが、“心”の教育を幼い頃に行う重要性を意味すると同時に、幼い頃に養った“心”が一生涯続くことを意味していると思います。もちろん、逞しいだけの心ではいけません。人は常に支え合いながら生きています。活動を通して、友達を励ます気持ちや頑張りを認め褒め称える気持ちといった、他者を思いやるやさしさも子ども達は同時に養ってくれています。
体を育てると書いて「体育」となりますが、体育は小学校以降に子ども達がこの先経験して行くことで、本園の体操教室は体育とは違います。心を育てることを目的としていますので、「心育」といったところです。本来、子どもは遊ぶことで様々なことを学び成長しますので、折り紙をすることもママごとをすることも、子どもにとっては遊びであり大切な学習の場でもありますが、その遊びが体を動かすものであれば、体の成長を促すもととなります。私が体操教室で指導していることなど、子ども達に遊びのきっかけを与えているに過ぎません。子ども達に体を動かし遊ぶ(運動・スポーツ)の楽しさ・面白さが伝われば、子ども達の運動量も自然と増えて、更に成長を促すこと繋がります。

運動の楽しさを子ども達に伝えることは、お父さんお母さんでも簡単に出来ます。子ども達と一緒になって遊ぶだけです! 仮に、子どもが遊びに乗って来ない場合は、その子の前で楽しそうに遊んで見せて下さい。子どもは遊びの天才です。楽しそうなことには興味を示して近寄って来ます。それでもダメな場合には、遊びの内容変えてみるとか場所を変えてみるとか工夫をしてみて下さい。“運動を教える”となると難しく考えがちになりますが、“子どもと一緒に体を動かして遊べば良い”と思えば、運動が苦手なお母さんでも大丈夫だと思います。

鬼ごっこや、ボール遊び、すべり台・ブランコといった固定遊具、どんな遊びでも構わないので、まずは遊びを楽しみ運動に興味を持たせて下さい。後は、「好きこそものの上手なれ」といった具合に、子ども自身が興味を抱き好きになった運動(スポーツ)は、どんどん上達が見られるはずです。どんな一流選手でも、そのスポーツが“好き”だからこそ、人並み以上の努力が出来るし、逆境も乗り越えられたのではないかと思います。

幼児期の子どもの体力や運動能力の差は、生まれてからの経験値の差です。「何となく 家の子は運動が苦手みたい」と思いの方がいらっしゃっても、今から出来るだけ多くの時間、出来るだけ多くの種類の遊び(運動)を心掛けてもらっていれば大丈夫です! 昨日出来なかったことが今日出来てしまうことも、幼稚園では珍しくありません。そして、お子さんが達成感を持てたときに、しっかり褒めて気持ちを共感することも忘れないで下さいね! 「今日は いっぱい遊んだね! すご~い!!」が、第一歩です。
最後になりましたが、これまで拙い文章にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。

愛宕幼稚園 松延 純一

~生きる力 心身ともに逞しい子どもを目指して~第5回 わくわくさん編

平成22年3月2日

 本園では、平成14年より導入された週5日制に伴い、自由登園の土曜日を設けて『わくわくさん』と称した特別活動を行っています。活動目的は、?親子のふれあいの場とする ?日頃体験出来ないことを行う ?保護者と連携し活動を行う として、活動の計画・準備を、園(教師)が行うのではなく、保護者(特に父親)を中心に行った活動もありました。活動内容としましては、竹パン・ピザ・バームクーヘンといった手作り釜戸での野外調理や、陶芸・竹細工・巣箱といった製作活動、カヌー・スケート・テニスといった体育活動に加え、登山や地引網体験にも親子でチャレンジしてきました。

 日頃の家庭生活では、上手くできなければ諦めたり、自分でやらずに保護者に甘えてしまう子も、『わくわくさん』では何とか自力でやってみようと頑張ります。試行錯誤しても上手くいかなかったり、疲れて諦めかけても、友達と励まし合い支え合いながら目標に近づきます。子どもたちの「初めてできた!!」「自分でできた!!」という成功経験は大きな自信となりますし、更なるやる気へと繋がります。逆に失敗しても多くのことを学び成長することができます。失敗の中で自ら考え学ぶことが大切で、失敗したからこそ気付くことや分かることもあると思います。子どもにとって、失敗体験は貴重な経験となります。感受性が豊かな幼児期にあらゆる体験を通して、成功も失敗も自分の意思・行動の下で経験した分だけ成長できると思います。失敗体験(挫折経験)の無いまま大人になっては、心まで逞しく成長することができないのではないでしょうか? 挫けそうで辛いときに諦めない精神力、それでもダメなときがあっても、人は互いに励まし合い支え合うことが大切だということを子どもたちに伝えたいと考えています。大人が世話をし過ぎていては、子どもは自力で頑張ることも少なくなれば、成功や失敗の経験も少なくなってしまいます。自立や自律の機会を大人が奪うことが無いようにしたいものです。

 「可愛い子には旅をさせよ」とは、本当に良く言ったものですね! 日々成長する子どもたちの潜在能力や可能性は、まさに無限大です! 我々大人たちの尺度では計り知れません。子どもを世話しているとか、教育しているという感覚をあまり持ち過ぎず、ゆとりを持って子育てを楽しんでほしいと思います。

    愛宕幼稚園  松延 純一

~生きる力 心身ともに逞しい子どもを目指して~第4回 戸外あそび編

平成22年2月10日

戸外遊び
 まだまだ寒い日が続きますが、園児達は寒さに負けず運動場を走り回って元気に遊んでいます。寒さを吹き飛ばす勢いで遊ぶ子ども達の姿を見ていると、逞しさを感じると同時に安堵感を覚えます。

 『遊びでからだを動かし運動することによって、子どものからだは豊かに発達します(身体能力)。また、遊びの中でルールを変えていくなど工夫する力をつけていきます(知性)。そしてさらに大勢の仲間たちと遊ぶことから協調性や思いやりなど人とかかわることの大切さをまなびます(社会性)。』 【引用:文部科学省発行「元気アップ親子セミナー」ブック】 この文は福岡県教育庁が行なっているセミナー資料の中にありますが、遊びが心身ともに子どもの成長を促していることを述べています。遊びや運動が丈夫な体だけではなく、同時に心も養っていることを忘れてはいけません。

 本園では、一日の幼稚園生活の中でも戸外あそび時間の確保を積極的に行っています。朝のお集まり前・お昼休み・お帰り前と、3回の戸外あそびの時間(雨天時は体育館)に加え、保育時間に余裕があれば出来るだけ戸外で遊びます。寒いこの時期の戸外あそびでは、ボール遊び(ドッチボール・サッカー・野球・キックベース)に並び、毎年なわとびがブームとなります。年長児にもなると、10分間の持久跳びや、交差跳び・あやとびといった技能跳びに加え、連続で二重跳びをする子や、長なわとびのダブルタッチ(2本同時に回す)を跳びこなす子も大勢います。体操教室でその時期に合った運動(季節に応じたシーズンスポーツ)を行うことで、一年を通して園児達の興味・関心と同時に、戸外あそびの内容も変わって行きます。神経系の発達が最も盛んな子ども達は、一つの動き(あそび・運動)で、一つの神経回路が出来上がると言っても過言ではありません。限られた遊びを繰り返し行うのではなく、多種多様に遊びの幅が広がれば広がる程成長を促すことになります。

 遊びの変容や時間・空間・仲間の三間の消失が、現代の子ども達の体力低下の大きな要因だと言われています。心身ともに逞しい子どもを目指す上で“戸外あそび”は必要不可欠です! 塾や習い事と早期教育も良いのですが、遊びが幼児期における“勉強”であることを頭の片隅において頂けたら幸いです。

 最後に、小学校の校庭や公園などで、戸外に出てまで“ポータブルゲーム機”や“カード”遊びに夢中の子どもを見かけることがありますが、そんな時はその子と日本の将来の為に「身体を動かして元気に遊びなさい!」と、ご意見番をかって出てみてはいかがでしょう!

    愛宕幼稚園  松延 純一

~生きる力 心身ともに逞しい子どもを目指して~第3回 スケート教室編

平成22年1月16日

 本園の正課で行っている体操教室では、アイススケートを活動に取り入れ「スケート教室」と称して行っています。年少は1日、年中・年長は2日間、スケート場(園バスで5分程度)へ行ってクラス単位で活動し、子ども達は日頃なじみの少ないウィンタースポーツにチャレンジしています。前回12月の文中で~子どもの「体力・運動能力」の差は、その子が生まれてから現在までの経験値の差であり、「どんなこと」を「どれだけ」やったかで決まります。~と書いたように、神経系の発達が著しい幼少期に様々な運動(動き)を経験することを目的に毎年行っており、夏には屋内プールとレジャープールを使った「水泳教室」も行っています。

 「環境が子どもを育てる」と言いますが、季節のある日本で暮らす以上、四季を感じ季節にあった様々な自然体験を一つでも多く子ども達にしてほしいと願っております。アイススケートにしてみても、一年中滑ることが出来て盛んな国もあれば、アフリカ諸国のようにスケート場が存在しない国もあります。国内を見ても、冬場になれば北海道・東北地方の多くの小学校では、運動場がスケートリンクと変わります。こうした自然がもたらす環境下での体験は素晴らしく、成長を促す上でも重要だと思います!(スケート場は人工的ですが…) 寒いときに暖かい部屋に入り、暑いときには涼しい部屋に入っていては、免疫力や体温調節といった機能はおろか、心身ともに逞しい子にはなれません。

親子スケート教室 「スケート教室」では、初体験の年少児のように恐怖心を持って挑む子、リンクで立つのが想像した以上に難しく戸惑っている子、転んでお尻が痛い子、終盤になりつま先が冷え痛くなった子など様々ですが、子ども達は自分自身で困難を乗り越えようと頑張ります。転んでも転んでも立ち上がる姿は、まさに人生そのもの! 氷上の世界といえば大げさですが、リンクという特別な環境下でも、諦めることなく困難に立ち向かう姿は本当に頼もしく、運動能力(立てた!滑れた!)以上に、“心”の成長を強く感じる活動です。怖い・寒い・痛い…気持ちを乗り越えて掴んだものは絶大です! 上達し、楽しそうに滑っている子ども達の姿は、みんな自信に満ち溢れています!

 ちなみに、年中・年長が行う2日目の活動では、保護者(スケート世代のお爺ちゃん含む!)にも参加して頂き「親子スケート教室」を行いました! 自由参加でしたが、合計115名の保護者が滑走しました!

    愛宕幼稚園  松延 純一

~生きる力 心身ともに逞しい子どもを目指して~第2回 幼児運動能力テスト編

平成21年12月8日

 文部科学省が1964年から全国的に実施している6歳以上を対象とした「体力・運動能力調査」は、1985年頃をピークに現在まで低下傾向にある子ども達の体力・運動能力の向上を計るため、二年前から全国全ての小学5年生と中学2年生で実施されています。(2013年以降は、小・中学生の全学年で実施を決定。)その結果、小学生の福岡県平均は全国平均を男女共に二年連続で下回っており、都道府県順位では、男子38位・女子41位(2009年1月発表 統計結果より)となっています。

幼児運動能力テスト
 本園では、小・中学校の全国実施に先駆け三年前から「幼児運動能力テスト」を実施(文部科学省推進“元気アップ親子セミナー”事業の一環で、県内の幼稚園では初めて実施。テスト項目は、25m走・テニスボール投げ・体支持連続時間・立ち幅跳び・両脚連続跳び越しです。今年度から県立スポーツ科学情報センター考案のテストを実施。写真参照)していますが、そのことで園児一人ひとりの成長を明確に把握し、園内・外の同年代の子ども達との比較が出来るようになりました。本園の平均値を全国平均と比較することで課題が浮き彫りとなり、その後の指導に大変役立っています。又、テストを実施することで、保護者の子どもの体力・運動能力への関心が増し、その重要性も理解して頂いてるようです。

 本園が初めて実施した三年前の結果では、テスト項目のほとんどが全国平均を上回っており、特に、年長児は男女共に「走力」「跳躍力」では、小学3年生レベルでした。しかし、体支持持続(腕力で体重を支える能力テスト)のみ、各学年共に全国平均を下回っていました。この結果を受けて動物の模擬運動(クマ歩き→両手を着いて歩く)など、腕で体重を支える動きやあそびを以前に増して活動に取り入れ、一年間で改善することが出来ました。

 子どもの「体力・運動能力」の差は、その子が生まれてから現在までの経験値の差であり、「どんなこと」を「どれだけ」やったかで決まります。衣服着脱(立ったままズボンや靴を履けない子が多い)や、自分の荷物を持つ、お手伝いをするなど、生活の中にも「体力・運動能力」を向上させる要素が含まれています。過保護な世話やバリアフリー化した生活は、子どもの成長の妨げとなります。三間の喪失(遊び時間・遊び空間・遊び仲間)に代表される子どもを取巻く様々な環境変化によって、子ども達の「体力・運動能力」も変化してきました。我々大人が意図的に関わらないと子ども達の体力向上を図れない時代になっているのは寂しい限りですが、「心身ともに逞しい子ども」に育ってほしいという親の願いは、昔も今も同じだと思います。「エレベーターより階段を!」と、大人のちょっとした心掛けが子ども達の成長を促進します。まずは出来ることから始めてみて下さい。

    愛宕幼稚園  松延 純一

~生きる力 心身ともに逞しい子どもを目指して~第1回 運動会編

平成21年11月4日

 はじめまして。私は幼稚園に勤める体育専任教師です。本園における取組みを紹介させて頂き、子育てのお役に立てれば幸いです。どうぞよろしくお願いします。

 さて、本園でも先月運動会を行いました。子ども達の生き生きとした笑顔がとても印象的な運動会で、子ども達にとって運動会がどれ程楽しかったか、またその経験で得た達成感まで伝わってきます。本園は創立以来「健康教育」をベースとする中で、運動会は年間行事の中で我々教師は基より子ども達も一番力が入る行事です。幼稚園教育の集大成とも言える運動会後、年長児には「いつでも一年生になれるね!」と話す程の成長ぶりです。子ども達は運動会を通し様々な面で成長しますが、とりわけ成長を感じるのが精神面です。

組み立て体操(写真?)

 特に年長児は、組み立て体操(写真?)、プレイバルーン(写真?)に加え、一輪車・なわ跳び・トランポリン・マット・平均台・跳び箱・鉄棒 といった運動をサーキット形式で行う、3つのプログラムにチャレンジします。どれも子ども達にとって簡単なものではありませんが、練習への取組みには積極的な姿が見られます。プレイバルーン(写真?)

 今、何不自由ない時代、そして過保護な環境で育っている子の多い中、我慢・辛抱といった体験とは縁遠い子ども達に、逞しく生きる力を身につけさせることの出来るのが運動会練習です。

 例えば、組み立て体操を例に挙げれば、専門家の中には「幼稚園で組み体操など時代錯誤だ」との考えもありますが、下で土台となれば重たいし、痛いし、汚れます。逆に、上に上がれば恐怖心でいっぱいです。それでも土台は上の子が怖くないよう、重さや痛さに耐え歯をくしばり、上の子もまた、土台の子を気遣い丁寧な上り下りを行い、自分の足で汚れた体操服を叩いてやる姿に、子ども達一人一人に困難に打ち勝つ忍耐力、やり遂げる責任感、そして何より友達を思いやる心が、この組み立て体操の練習を通しても引き出され育っています。

 人は、「体」も「頭」も「心」も、使った分だけ成長します。心(精神面)の成長こそが、生きる力の根幹ではないでしょうか。

    愛宕幼稚園  松延 純一