米倉けいこ先生

第4回 思春期うつについて

平成29年7月12日

 思春期の子どもは、受験のプレッシャー、クラスメイトからのいじめ、両親の不仲などをきっかけに自信をなくしやすく、自分を責めたり、ひきこもりがちだったり、やる気もなかなか出にくいようです。子育てにおいては、「母性」が強すぎると依存的で自立できない人間が育ち、「父性」が強すぎると幼児性と攻撃性が出てくるといわれています。また、最近の子育てでは、「父性」が不足している傾向があるようです。「母性」「父性」が順番にバランス良く与えられることで、子どもはやる気が出て、ストレスに強くなり人間関係を上手くやっていけるようになります。

 そこで今回は、思春期うつ病予防、対処のための親の関わり「父性と母性の役割」について書きます。主な養育者(母親)からの「無条件の愛情」が「母性」で、父親的な役割の人(父親)からの「父性」は、社会性を身に付けるために大切な関わりです。幼少期に包み込まれるような母性は、子どもに安心感を与え、小学生になる頃からは、「ダメなことはダメ」と叱る厳しさ「父性」が必要で、ルールを決め、それを守らせることで子どもは、ストレスに強くなります。また、してはいけないことをしてはいけないと叱ることで、子どもの情緒が安定し、人間関係も良好になります。大きな声で怒鳴る、叩くのではなく、冷静に何がいけないのかを諭すように「冷静に行動を叱る」ことが大切です。いつも大きな声で怒鳴られていると、子どもは人や社会が怖くなってしまいます。また、叱られたことのない子どもが、学校で先生から怒られる他の子どもを見ただけで学校に行けなくなったりします。子どもが生まれた時、無条件で可愛かったことを今一度思い出し、生まれつき攻撃性が強かったり、情緒が安定しなかったりする子どもはいないのだと信じて、愛情と叱ることの両方を大切にしましょう。

第3回 思春期うつについて 実践的な関わり

平成29年6月14日

 第3回は、思春期うつを予防するために、親や先生、地域の人たちがどのように実践できるかについて書きます。

 子どもたちが「自分はダメだ」「自分には生きる価値がない」と落ち込んだり、死にたくなったりするのを防止するためには、子どもたちに日頃から「心の栄養=ストローク」を充分与えましょう。
 「ストローク」とは、相手の存在や価値を認める働きかけ、刺激のことです。人は、体の栄養だけでなく、抱っこする、微笑みかける、関心を持つなどの心の栄養が必要です。ストロークには、言葉による言語的なものと言葉によらない非言語的なものがあります。以下、ストロークの種類を4種類に分けます。

 ○ 無条件のプラスのストローク
  ・存在の肯定(存在や価値を認める)
  ただ、生まれてきてくれたことが大好き

 ○ 条件付きのプラスのストローク
  ・行為の肯定・・・しつけに使う
  何かできた時にほめる

 ○ 条件付きのマイナスのストローク
  ・行為の否定(間違った行為)・・・しつけに使う

 × 無条件のマイナスのストローク
  ・存在の否定・・・要らないストローク
  にらむ、しかめっ面をする 「お前はダメだ」「嫌い」「生きる価値がない」

 上記の4種類のほかに、ストロークが全くないことをノンストロークといいます。人はストロークがないと自分の生きる価値、価値を認めることができないために、ストロークを求めます。人は、プラスのストロークをもらえないと、マイナスのストロークでももらおうとします。例えば、赤ちゃんが生まれて、赤ちゃんのお世話で追われるお母さんに、わざと怒られるようなことをしてストロークを得ようとする上の子どもがそれにあたります。

 「基本的自尊感情」は、無条件のプラスのストロークによって、「社会的自尊感情」は条件付きのプラスのストロークと条件付きのマイナスのストロークがバランスよく与えられたときに高まります。

 私のライフワーク、学校での「いのちの授業」で、「たとえ親の期待に応えなくても、あなたは無条件に愛される価値がある」と子どもたちに話すと、泣き出す子どもがいます。子どもは、親から無条件に愛して欲しいんだと思います。一方、社会的な関わりにおいては、「基本的自尊感情」と「社会的自尊感情」が、バランスよく高められることが重要です。これも大切なストロークです。つまり、無条件のプラスのストロークを基本に、子どもたちを条件付きで褒めたり、叱ったりというストロークも必要です。何かをやろうとした時に褒める、出来た時に認める、してはいけない時には適切に叱ることなどです。皆さんも、身近な気になる子どもさんに「こんにちは、元気?」「がんばってるね」などと、一言声をかけることから実践しましょう。

第2回 思春期うつについて

平成29年5月11日

第2回はカウンセリングの視点から、思春期うつ病と「自尊感情」との関連についてです。お母さん方から、以下のようなご相談がありました。
「子どもが学校に行かなくなって、朝起こしても起きず、勉強もせずにゲームばかりして、このままだったらニートになりそうで不安です。お父さんから怒鳴られて子どもは落ち込んで、あれから口も聞きません。私はどうしていいか分かりません。」

 一方、子どもさんと個別に話してみると、
「学校に行けない自分は生きる価値が無い。親の期待に応えられない。ゲームもしたくてしてるわけじゃない、することがないから…。もう、本当は死にたい。」と打ち明けてくれました。

 このように、これまで、何かの条件(勉強ができる、スポーツができるなど親の期待に応えるなど)を満たすことで自分の自尊感情を保ってきた子どもが、その条件を満たせなくなった時に「うつ状態」になってしまうことが多いのです。

 自尊感情には「基本的自尊感情」と「社会的自尊感情」があり、カウンセリングでは基本的自尊感情を高めることに焦点を当てます。「基本的自尊感情」とは、誰かと比べてではなく無条件で愛され、受け入れられているという無条件の感情のことで、「社会的自尊感情」とは、人と比較して優れているか劣っているかという比較から生まれる感情のことです。大切なのは、カウンセリングで子どもが自由に感情を表現できるようになることで、それにより子どもは、ありのままの自分でいいんだという自信をつけていきます。そして、次第に、「基本的自尊感情」が強まり「親の期待に応えなくても、自分は無条件で価値がある存在であること」を心から理解できるようになり、自分の生きる価値を否定する気持ちがなくなっていき、次第に思春期うつから回復するわけです。

第1回 思春期うつ病とは

平成29年4月13日

現代は核家族化が進み、地域社会も崩壊しつつあり、大家族や地域全体で子育てすることが減り、保護者は孤独な子育てを強いられています。
 私は、福岡市の人権講師として公立小中学校PTAの講演をさせていただいていますが、ここ10年でも不安を訴えるお母さん、お父さん、子どもさんたちが増えて来ました。不登校の子どもの数は増加の一途を辿っている上、世界の先進国の中でも日本の青少年の自殺率の高さは群を抜いています。そこで、私は今月から4回シリーズで第1回「思春期うつ病」について、第2回はカウンセリングの視点から、思春期うつ病と「自尊感情」との関連について、第3回は、具体的なケースについて、第4回には「家族がどう関わったら良いか」について書きたいと思います。

 まず、現代の子育ての困難さや不安の増大の原因を考える上で、子育て環境の変化について触れたいと思います。福岡の地方新聞『夕刊フクニチ』誌上で1946年(昭和21年)から連載された長谷川町子さん作「サザエさん」では、終戦の復興期から高度経済成長の時代の日常生活が描かれており、当時の子育ての様子をうかがい知ることが出来ます。タラちゃんのお母さん「サザエさん」は、明るくてのんびりとした性格です。その性格のまま、のびのびと子育てが出来ているのは、子どもや孫の存在自体を受け容れてくれる母性の象徴のような「フネさん」と ルールを守らない時などには感情的にならずにしっかり叱ってくれる父性的な「波平さん」や親戚に加えて、子どもたちを見守ってくれる近所の人々が居てくれるからではないでしょうか。こうして、多くの大人が子育てに関わっていた昭和の時代と違い、現代は核家族化が進み、地域社会は崩壊し、情報化社会が到来し、いじめや不登校が増える現代において、特に核家族での子育ては、お母さん一人の肩に大きくのしかかっています。もし、子どもが不登校になったり、うつ病になってしまったりしたらどう対応したらいいかも考えていきます。このWEB講座で、少しでもお母さん方の助けになる内容にしたいと思います。
 
 さて、日本における自殺は主要な死因の一つで、10万人あたりの自殺率は20.9人となっています。その原因として、うつ病があげられ、子どもたちにもその現象がみられるものの、見逃されてきております。
 
 児童・思春期うつ病に多い症状は、イライラ感、身体的愁訴、不登校です。子どもは抑うつ気分を言葉で表せず、それをイライラ感や身体症状、不登校、引きこもる、ゲームに依存する、しゃべらないといった形で現すこともあります。また、思春期の子どもは抑うつ気分を「つまらない」「どうでもいい」「面倒臭い」「疲れる」などの言葉で表現することもあり、親から見るとただの怠けや反抗に見えることもあります。このような事から、子どもが抑うつ気分を表に表していなくても心の内側では、苦しんでいるのかもしれないという見方を持つことが大事です。次の項目を参考に子どもさんの様子を注意深く観察してみてください。

○思春期うつ病には、次の様な前兆が見られることがあります。
  ・寂しそう、あるいはいら立っているように見えたり、涙ぐんだりしている
  ・食欲や体重に変化がでる
  ・以前は好きだったことに興味を失っている
  ・活力が落ちている
  ・集中力が落ちている
  ・自責の念や無力感があったり、悲観的になっている
  ・睡眠パターンが大きく変わる
  ・頻繁に「つまらない・どうでもいい」と言う
  ・自殺をほのめかす
  ・友だちづきあいやクラブ活動をしなくなる
  ・成績が下がる
  ※上述の前兆が、全てうつ病と関係しているとは限りません。

【参考】AACAP(American Academy of Child and Adolescent Psychiatry)

 以上の様な前兆や症状が見られるようになったのがいつからかを親や身近な大人も考えてみましょう。