奥村 賢一 先生

4.子どもの自立に向けて私たちがやるべきこと

令和5年7月12日

 いよいよ本連載も最終回を迎えることになりました。今回は子どもの自立について考えてみたいと思います。

 文部科学省は不登校児童生徒の支援について、「学校に登校するという結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要がある」と示しています。

 では、社会的に自立するというのはどういう意味なのでしょうか。広辞苑では自立を「他の援助や支配を受けず、自分の力で判断したり身を立てたりすること」としています。自立の対義語を「依存」とする辞書もあるなど、一見すると社会的な自立とは誰の力も借りずに一人で生きていくことのように受け取ることができます。

 一方で、私たちの暮らしにおける自立の対義語は「孤立」だという考え方もあります。社会で自立をするということは、一人ぼっちで生きていくことではなく、さまざまな人たちに支えられて生きていくことであるという捉え方です。

 私は後者で示した自立の考えこそが、子どもの支援では非常に重要だと思います。特に不登校の子どもや保護者は社会で孤立しがちです。でも、あなたは決して一人ではありません。一人で悩みを抱え込むことなく、誰かを頼ってみませんか。あなたの気持ちに寄り添い、心から応援したいと思っている人がいます。人は誰も一人では生きていくことができません。私たち大人が支え合うなかで、子どもが自立できる社会を一緒に作っていきましょう。

3.原因追及をしない子どもとの対話

令和5年6月16日

 2016年9月、文部科学省は「不登校とは、多様な要因・背景により、結果として不登校状態になっているということであり、その行為を『問題行動』と判断してはならない」という通知を出しました。

 しかし、不登校になることで学習は遅れ、人間関係も希薄になっていきます。自宅に引きこもる時間が長くなると、退屈な時間はオンラインゲームにのめり込むようになり、次第に生活リズムも乱れ、家族関係にも影響が出始めます。不登校が「問題行動」ではないとしても、保護者はどうしても「なぜ、学校に行かないの?」という気持ちが強くなってしまいますよね。

 そんな時、子どもに対して“Why(なぜ)”という言葉を多用していませんか?“Why(なぜ)”は子ども自身の責任を問う原因追及を表す疑問詞です。物事を因果関係で捉えてしまうため視野が狭くなり、子どもの行為・行動ばかりに注目してしまいます。そして、子どもを責めた保護者は、最終的に自分自身を責めてしまうのです。

 このWhy(なぜ)を多用すると人は追い詰められた心境になってしまいます。こういう時は、その他の5W1Hを上手に使ってみましょう。具体的には、When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、With(誰と)、What(何を)、How(どのように)という6つです。

 不登校が長期化すればするほど、その背景は見え難くなるものです。5W1Hを意識的に活用することで視野を広げ、子どもを責めることなく受け止めていきたいですね。

2.子どもの思いに寄り添う

令和5年5月12日

 不登校になることで希薄になる人間関係や社会との繋がり。
 多くの子どもが不安や孤独に(さいな)まれています。

 そんな時、最も身近な存在である保護者には、誰よりも自分の気持ちを理解して欲しいと子どもは思っています。そこで今回は、子どもの思いに寄り添うための援助方法として、受容・傾聴・共感を意識した話の聴き方について解説を行います。

 「受容」とは、子どもの語りに対して、大人が軽率に評価を挟まないことを意味します。対話のなかで私たちは「良い・悪い」「正しい・間違い」などの評価を入れてしまいがちです。子どものことはすべてわかっているという態度ではなく、少しでもわかりたいという姿勢を示しましょう。

 「傾聴」とは、子どもの話を遮ることなく最後まで聴くことを意味します。子どもの話を聴くときに、私たちは結果を先回りしてしまいがちですが、伴走するイメージで対話の過程に付き合ってあげてください。自分の気持ちを伝えることが苦手な子どもは、問い詰めずに待ってあげることも重要です。

 「共感」とは、子どもの感情を共有することを意味します。子どもの語りの裏側にある喜怒哀楽を言語化してあげてください。ただし、共感は同情ではありませんので、感情移入し過ぎないように注意しましょう。あくまでも保護者であることを意識して、子どもの気持ちを理解することを心掛けてください。

 子どもの思いに寄り添うことで、不登校の本質的な課題が見えてくるはずです。

1.子どもの不登校と保護者の葛藤

令和5年4月14日

 突然、子どもが学校に行かなくなった時、保護者の脳裏に過ぎるのは「不登校」という言葉ではないでしょうか?

 2021年度の不登校児童生徒数は全国で過去最多となる24万人を超えました。コロナ禍により一変した私たちの暮らしは、子どもたちの学校生活にも大きな影響を与えました。学校の全国一斉休校にはじまり、各種行事の中止や変更など、これまで日常だったことが、すべて非日常となりました。登校していた子どもが、急に不登校になることは、それに近い衝撃があるかと思います。

 子どもが不登校になることで保護者が抱える重圧は、家庭や職場など多くの環境に波及していきます。周囲の視線や評価に敏感となり、次第に学校や地域と疎遠になることで、罪悪感、孤独感、焦燥感などの感情が重なり、先の見えない不安となって襲ってくるのです。

 子どもが不登校になった時、保護者の誰しもが「なぜ学校に行かないのか?」という気持ちになってしまいます。それは私たちの中に「学校は行くのが当然」という固定観念が内在していることを認識する瞬間です。学校に行かない子どもの気持ちを頭では理解しようとしても、心では受け入れがたい部分があるのではないでしょうか?

 こんな時、自分を責めたりしていませんか?保護者として抱く葛藤は、子どもに対する愛情の大きさです。必要以上に自分を責めないでください。あなたは一人ではありません。これから不登校について一緒に考えていきましょう。