野口 紀子 先生

3.思春期の子どもとのコミュニケーション

令和6年6月17日

 思春期の子どもに声を掛けても「別に」しか返ってこない、という話をよく聞きます。問いかけても反応がなければ問いかける意味がない、と思うかも知れませんが、反応がないことも一つの反応です。親は子どもからの「良い反応を求めて」声を掛けるのでしょうか。それではあまりにも親は自分勝手ですよね。親は、子どもを知りたい、理解したい、元気か、困ったことはないか、何か力になれることはないか、あれば助けたい、などの想いで声を掛けるのですよね。その時「別に」という返答であれば、それはある意味良い応えです。「別に」と言うわが子の顔をしっかりと伺い、いつもと変わらず元気そうであれば「今日も元気で良かった」と安堵しましょう。そして、親側もいつも問うばかりではなく、たまには「あなたの大好きなどら焼きを買ってきたよ。一緒に食べよう」などの楽しい声掛けをしてくださいね。

 思春期の子どもはまだまだ発達途上。見た目は大人の様でも考えは幼稚で精神面も起伏が激しく、見通しも甘いでしょう。だからこそしっかりと話し合う必要があります。気になることはピンポイントで指摘しましょう。それも一般論の説教ではなく、親としてどう感じるかを伝えると良いですよ。子どもの「別に」との返答に対して、もしも心配な点があれば「何かあったでしょう?」などと質問するのではなく、「いつもより声が少し小さいから、何か心配なことでもあるのかなあと思って・・・」と、自分が感じたままをそっと伝えます。その場は伝えるだけで十分です。子どもは「へえ、親はそんなことを思ったのか。ちょっとした変化にも気が付くんだなあ」と理解し、孤独ではないことを感じるだけで悩みを解決するエネルギーを得ることもあります。あるいは数日後や数週間後に心配事を打ち明けてくれることもあります。その時はしっかりと話しを聞きますが、決して質問攻めをしたり、いきなり怒鳴ったりしないでくださいね。子どもはそれ以上話そうとしなくなり、解決へ至ることが難しくなるからです。「あなたはいつもそうなんだから」と、一つのことを全てであるかのように言わないことも大事です。また、子どもやお友達に対する人格否定的な言葉や態度は絶対にしてはいけません。

 問題がある場合は、子どもを支援するという親の役割をしっかりと認識し寄り添う姿勢で、子どもはどのように考えているのかを具体的に尋ねながら、親の知識や経験を交えつつ解決の見通しを立てていきましょう。そして、法に触れることや人を傷つけることでなければ、ある程度の合意に達したところで、多少の失敗は織り込み済みとして本人に任せるくらいの度量が親にも必要です。

2.思春期の子を持つ親の務めとは?

令和6年5月24日

 「親の一番の務めは子どもを養育すること」と、誰もが認識していると思いますが、思春期になるとそれに加えて、「子どもの自立のためにどのように支援するか」を意識しておくと良いでしょう。

 子どもの自立を支援するためには、まず現実のわが子をきちんと認識できていなければなりません。親は子どもにこうあって欲しいと望みを抱くものですが、もしもそれが親の一方的な理想だとしたら子どもにとっては迷惑な話です。親がわが子に理想を求めすぎると、子どもは「私の親は真実の私を愛しているのだろうか。親が愛しているのは私ではなくて、理想の子どもではないのか」という、自己の存在をも危うくしてしまいそうな辛く切ない想いを抱いてしまいます。

 「小さい時から野球好きな父親とキャッチボールをよくしたけれど、ずっとピアノを弾きたいと思っていた」という話を聞いたことがあります。親は悪気はないのですが、親の意向のみを良しとしがちですので気を付けたいところです。

 子どもの趣味は?関心事は?どのような人と気が合う、合わない?将来の夢は?理想的な生き方は?何が得意で何が不得手?など、現実のわが子を認識できているでしょうか。幼い頃と変わらず全面的に愛しながらも、一方では客観的な目で見る必要があります。

 また、思春期は人間関係や将来への悩みも生じてくるものですが、親の人生と子どもの人生は全く別ですから、子ども自身でそれらの悩みを負わなければならず、親は側で見守ってやることしかできません。しかしこの、見守ってやるのが一番大事で意義があり、自立の支援をしていることになるのです。

 思春期の子どもは、まだまだ親の翼の中に身を置いています。頑張ったり、傷ついたりしても、親という翼の中で身を休め安堵を得、次にまた羽ばたくエネルギーを得るのです。それを繰り返すことで、いずれは社会に飛び立っていきます。

 子どもが成長するにつれ、親自身も様々な問題に直面するかもしれませんが、それらを頑張って抱え込み過ぎないようにしましょう。誰かに相談するなど他人の助けを借りることは、思春期の子どもへの良いお手本となります。「困った時は援助を求めてもいいんだよ」というメッセージになり、それも自立への支援なのです。

1.「思春期」ってどんな期?

令和6年4月23日

 思春期の特徴を成長発達の視点から言えば、幼児期の自己中心性(「わがまま」という意味ではなく、「自分中心に物事を認識する」という意味です)から周囲の状況に目が向き、それ故に自分の立ち位置があやふやになり精神的にも不安定になる時期です。社会性を養う上で周りに意識が向くのは大事なことなのですが、思春期において気を付けたいのは、「ことさらに周りを気にし過ぎる」という点なのです。特に同世代の人たちのことがやたらと気になります。そして、ほんの半径数メートルくらいの人間関係に大きな影響を受けます。親は「友達なんて他にいくらでも作れるでしょ」とか「世界はとても広いのだから、そんな狭い人間関係に悩まなくてもいいのに」と思うかも知れませんが、思春期の子どもは半径数メートルが世界の全てであると感じていることを、親は理解する必要があります。

 「思春期イコール反抗期」と思っておられる方も多いと思いますが、これは大きな間違いです。「反抗」は時期の問題ではなく関係の問題です。幼い子どもでも大の大人でも、自分に対して侮辱的で押し付けがましい人には反抗的になるものです。思春期が反抗期と捉えられがちなのは、子どもが自分で考え行動することが親の意向に反する場合が増えてくるからです。ですから、子どもが反抗的だと感じることがあれば、親の側が自分の意向を押し付けていないかと反省しましょう。私も時々、周りの親が子どもに対して必要のない指示や小言を言っているのをよく耳にします。親は余計なことを言い、子どもはうるさく感じます。それを親は反抗的だと取ります。ですから、親が言えば言うほど関係は悪くなっていきます。

 もっときちんと子どもの話を聞いてあげてください。子どもは一生懸命に考えているのです。普段から子どもの意見を尊重し(何でも子どもの要望通りにするという事ではありませんのでご注意ください)、子どもの自立を支援している親であれば、思春期の子どもでも反抗はないのです。