カウンセリングスペースやどりぎ

「ゲーム障害と依存症―治療と回復について―」

令和4年7月21日

 梅雨が明け、暑さも本格的になってまいりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

 これまで4回にわたり、ゲームへの依存について考えてきました。今回は子どもがゲームに依存してしまった場合やゲームへの依存によって問題が生じた場合についてお伝えしようと思います。

 「ルールを作っても破られ、取り上げると怒って暴言を吐かれる…」このような相談が弊所にも多く寄せられます。依存症は“コントロール障害“と言われ、依存行動をするために時間やお金をコントロールできず、社会生活に支障をきたしてしまうものです。子ども自身、ゲームの時間やお金をコントロール出来なかった時、自分に情けなさを感じ、周囲からの批判に怯えています。周囲から批判をされると、本人は自分以外のせいにして自分を保とうとします。そのため、①ゲームの時間やお金をコントロールできないのを責めないこと、②改善してほしいことやお願いは本人が落ち着いている時、少なくともゲームをしていない時にIメッセージで(“私は”を主語にして)話すこと、③本人が抱えている問題を一緒に考えることが有効です。

 ルールを守れなかったこと・コントロールできなかったことの是非を問うのではなく、それによって生じた結果と責任をきちんと本人に返すこと。このことが依存の進行を食い止めることに繋がってきます。そうして、ゲームに没頭する原因となるストレスへの対処法を一緒に考え、問題に対処する力がついてくると、子どもの自信はついてきます。親はアドバイザーに徹し、本人が問題解決していけるように見守る、親子で問題解決が難しいときは専門家に尋ねるという順序を経ていくと良いかもしれません。

 親子での建設的な会話が難しいという場合は、第三者への相談をお勧めします。病院やカウンセリングルームなど、子どもが支援機関への拒否感がある場合は、OLGA(On Line Gamers Anonymous)の利用をお勧めします。OLGAはゲーム障害の自助グループであり、ゲーム依存から回復してきた方々が集っています(土曜19時~20時、さざんぴあ福岡にて実施)。同じ苦しみを経験している仲間からの共感はとても強い力になると思います。依存症は家族を巻き込む病気です。家族だけで抱えこまず、専門家や自助グループから適切な対応を学んでいきましょう。

「ゲーム障害と依存症―予防について―」

令和4年6月23日

 暑い日が続き、だんだんと夏が近づいてまいりますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

 今回は予防の観点からお話しします。内閣府(2022)の調査によると、現在、中学生の74%はスマートフォンを持っているとされています。スマートフォンやオンラインゲームを一切使わないことは困難であり、弊所でも使用によるリスクを軽減することが最大の目標になっています。

 近年のオンラインゲームはプレーヤーを熱中・興奮させる仕組みがとても緻密に組み込まれています。また、かつてと比べてプレイする画面の鮮明さや動画の処理速度も上がっているため、脳は過度に覚醒し、没入感を得やすくなります。デバイスへの没入感を減らすための工夫として、①PCをリビングや外が見える場所に設置する、②目に入る位置に時計を置く、③ノイズキャンセリングのイヤホンを使用しないこと等が挙げられます。これらをすることで、PCの情報だけに集中することを防ぐことが出来ます。また、睡眠への影響を減らすために寝室にスマホやタブレットを持ち込まないというルールを家族皆で実行する、朝の時間帯にゲームをすると決めて、ダラダラ使用するのを防ぐという方法もあります。この他に、端末を使用する際は、画面の対角線の長さの2.5~3.5倍の距離を取る(ヴィクトリア,2022)、スマートフォン(6インチ)であれば、A4サイズの長さ程度(30㎝)離して見ることを心がけると良いでしょう。

 ゲームやSNSへの依存を予防するためには、端末に制限をかけることも有効です。例えば、親が子どものスマートフォン等を管理する場合はGoogleのファミリーリンクを、子どもが自分で管理しようとする場合はiPhoneのスクリーンタイムが使用しやすいようです。前者は親が自分の端末からリモートで子どものスマートフォンの制限をかけることが出来ます。一方、iPhoneは自分で設定をするのに向いています。最初のうちは子どもが自分で時間を決めて、制限解除のパスワードを親が管理する、高校生になったら子どもに自分で管理してもらうなど、それぞれの特徴を上手に使っていくことをお勧めします。

 予防で最も大切なことは、子どもが安心して自分の心を許せる場所や人を複数作ることです。人間関係や学業等で困難を抱える際は、児童相談所や医療機関など、子どもの育ちを支える相談機関につながりましょう。健康的で本人が好きな活動を増やすことで、ゲーム以外の選択肢を増やせると思われます。依存に陥る子どもの多くは助けを求めることが苦手です。大人から周囲に助けを求めることをモデルとして見せていくのも良いかもしれません。

 内閣府(2022) 『令和3年度 青少年のインターネット利用環境実態調査』
 ヴィクトリア・L・ダンクリー(2022) 『子どものデジタル脳完全回復プログラム 電子版』川島隆太監修,鹿田昌訳,飛鳥新社

「ゲーム障害と依存症-今、私にできること-」

令和4年5月18日

 新学期も始まり、保護者の皆さまもお子さまたちも、新しい環境に期待と不安の入り混じる1か月をお過ごしのことと思います。少しお疲れも出ている頃ではないでしょうか?

「ゲーム障害と依存症」第2回目は、「ご家族の対応」についてお伝えいたします。

 ご家族の対応で、最初にすることは「疲弊しきった保護者自身の心身を整える」ことです。依存症支援の領域には、HALT(ハルト)という言葉があります。これは、Hungry:空腹・睡眠不足,Angry:怒り,Lonely:悲しみ・孤立感,Tired:疲弊,の頭文字をとった言葉です。HALTの状態の時は、エネルギー切れです。ご自分の充電と回復が、最も優先されます。弊所の家族会でも、「ゲームと子どものことで頭がいっぱいで、自分が楽しむことに罪悪感を感じる」「息子をこんな状態にした。私はダメな母親です」というお話を伺います。ご夫婦間でもこのような気持ちを共有することは難しい場合もあります。その時には、迷わず第三者に相談してください。依存症という病に最も有効なのは、「つながり」です。安心して話せる第三者をみつけて、定期的に連絡をとりましょう。医療や相談機関、ハードルが高い場合には相談機関に限らず、ご友人でも大丈夫です。

 次に、毎日ご本人と顔を合わせられる強みを活かし、ご本人への「声かけ」を意図的に大切にしてみてください。例えば、「おはよう、おやすみ、美味しいね」等の短い挨拶がおすすめです。返答はなくて大丈夫。ご自分のために、トライしてみてください。トライした自分にOKを出してください。また、保護者の皆さまが、子どもの頃、「言われて嫌だった」という言葉かけは、別の言い方が出来ないか、本当はどんな気持ちを伝えたいのか考えてみましょう。

 ご自分が少し回復したら、子どもの好きなゲームはどんなものなのか、保護者の皆さまもゲームのことに関心を示してみましょう。ゲーム実況や解説の動画もネット上にたくさん出ています。ルールを話し合う場合にも「どうせわからないでしょ」と思われた状態では、現実的なルール設定は難しいものです。ルールを破る・守れないの繰り返しは普通のことです。ルール作りで大切なのは、ルールを作る過程で生まれる「やりとり」です。そして、ぜひ定期的なルールのアップデートをしながら、それぞれのご家庭の「ベスト」を探してみてください。「ゲーム障害と依存症」第3回目は「予防」の観点からお伝えいたします。

「ゲーム障害という依存症」 ~ゲーム障害と依存症~

令和4年4月28日

 皆さま、はじめまして

 今月から4回連続で、ゲーム障害(ゲーム依存)についてお話させていただきます。第1回目は、「ゲーム障害と依存症―ゲームを禁止すればいいの?-」についてです。

 2019年5月、世界保健機関(WHO)は「ゲーム障害」を新たな国際疾病分類として認定しました。ゲーム障害とは、ゲームをする時間をコントロールできない、他の生活上の関心事や日常の活動よりゲームを優先するといった症状が1年以上継続することをいいます。症状が重い場合は1年以内でも該当します(樋口,2019)。ゲーム使用に伴う、コントロール障害(時間・課金問題等)とそれに伴う機能障害(体力の低下や心身の不調、社会参加の機会損失等)により、問題が長期化・深刻化する事例も多いです。やどりぎ開所の2019年から現在までの利用者統計をみると、オンラインゲームを利用する13歳から25歳までの相談者が約7割を占めています。中高生は保護者のみの来談が6割を占めますが、20代では課金の問題や勤め先とのトラブル等で社会的に行き詰って来談する事例が増えます。

 多くの方が、「うちの子はゲーム依存ではないか」と悩んで来所されます。ゲーム障害として、治療が必要なのは週30時間以上のゲーム使用が一つの基準になります。弊所では、ゲームの使用時間やゲームタイトル等も伺いますが、一番大切にしているのは「子ども自身にとって、ゲームをすることに、どんなメリットがあるのか」をみつけることです。

 ゲームに夢中になることで、ゲーム以外の活動時間は減ります。多くの場合、うまくいかない現実や自分の抱える問題に向き合わずに済むようになります。一方で、ゲームの中での交流が、子どもの避難場所・心の松葉杖として機能し始めます。依存症発症の背景には、「生きづらさ」があり、自分が依存する物や行動を「つらい現実から逃れるため」に使い続けることで、気づいた時には「やめたくても、やめられない」状態が生まれているといわれます。そのため、ゲームの禁止や制限だけでは解決にはなりません。

 ゲーム障害からの回復は、ゲームの禁止や制限を考えるよりも、子どもの抱える問題のケアやストレス対処法の選択肢を増やすこと、リアルの世界で同世代に限らず「つながり」を増やすことが役に立ちます。何より、日々子どもとゲームを巡って葛藤する保護者自身にも支援やケアが必要です。次回は、「ゲーム障害と依存症―今、私にできること―」として、ご家族の対応についてお話させていただきたいと思います。

樋口進(2019).病気認定されたゲーム障害の現状と今後,国民生活センター,6‐8