重永 侑紀 先生

いじめや不登校、それは子どもからのSOS

平成31年3月18日

1.はじめに
 学童期の子どもに対する保護者の不安には、いじめや不登校の問題があります。
 確かに心配で不安だとは思いますが、不安感を抱くとむしろ状況を悪化させることも少なくありません。スッキリと整理しておきましょう。

2. 子どもたちの不快感や不安感の表出
 まず、言えることは、いじめも、不登校も、それぞれは、子どもたちの不快感や不安感の表出による行為です。例えていうなら、インフルエンザになれば、高熱が出ることと同じです。熱を出すな!と叱っても治りませんよね?看病する人が、「なぜ熱を出すの!」「どうしてダラダラしているの!」と、慌てたり責めたりすればするほど悪化します。安全なところで休むことや、安心できる人からお世話を受けるなど、冷静に対応することが必要です。
 もし今、あなたのお子さんが、「お友だちに意地悪な言葉や態度をぶつけている」と報告を受けたとか、「お友だちに仲間はずしにあってつらい思いをしている」とか、「理由も言わず学校に行くことを渋っていて困っている」とかあるならば、あなたにはお子さんを看病する役割があるのです。

3. あなた自身が、自分を責めないで
 そのような状況になったとき、「わかっているけどイライラする」「学校に行ってくれないと困る」と言いたくなるでしょ?それだけでなく、「自分の育て方が悪かったのか」「私が親じゃなければ、こんな風になっていなかったかもしれない」とか、あるいは、「誰かに責められるかもしれない」という不安から、あなた自身が、自分を責めてしまうこともあるでしょう。不登校の場合は、リアルに仕事との関係で焦り、子どもを責めてしまうかもしれません。

4. 決して悪いことではない
 いじめや不登校などの行為は、いずれにしても、子どもたちが言葉では表出することができなかった大きな問題を、ようやく行動で表現してくれたと考えるのです。だから、これは、問題解決のきっかけとなりうるチャンスなのであり、決して悪いことではないのです。自分では、十分な語彙力で大人にわかるように説明することは難しい、でも、「自分はこのままではいけない」という気持ちを表出できたのです。たとえ、それが、どのような行為であったとしても、慌てずに次のように言葉をかけてみてください。

5. 問題の解決につながる対応
(1) 表現できたことを認めます。
「誰かをいじめたいくらいイライラしていた気持ちや寂しかった気持ちに気づくことができなくってごめんね。お母さん(お父さん)は、君が困っていることに気づかせてもらってよかったと思っているよ。」
(2) 今までひとりで対応してきたことに敬意を払います。
「きっと今までモヤモヤしていたり、どうしていいかわからなかったりして困っていたんじゃないかな?一人でよく頑張ってきたね。」
(3) これからは一人ではないことを伝えます。
「これからは、◯◯◯するから、あなたも一緒に~~しようね。」

6. おわりに
 例えば、お友だちをいじめていた場合、叱りとばしても解決しません。叱るよりも、「不適切な行動を伴わない子ども自身の不安の表し方」を、子どもと一緒に考えるチャンスなのです。もちろん、「相手も悪かったんじゃないか」等の対応は論外です。
 また、不適切な行動をくりかえしている子どもには、罰ではなくサポートを与えてください。決して不適切な行動を許すのではありません。誰もが、失敗をしながら学んでいくものだと伝えてください。子どもには育つ力が備わっているのです。
 

しつけと虐待との混乱

平成31年2月18日

1.はじめに
 「しつけと虐待の境目はどこですか?」とよく聞かれます。答えは、「境目はありません。なぜなら2つは異質なものだから。」です。
 「しつけ」とは、子ども自身が自分の気もちや行動をコントロールできるように援助することなので安心がベースです。ところが、「虐待や暴力」というのは、伝える「やり方」が子どもを傷つける・不安がらせる・怖がらせることなので、例え教育やしつけが目的であったにせよ、「やり方」が子どもを傷つけるものであれば百害あって一利なしです。体罰は、軽微なものであっても子どもの脳に非常に悪影響を及ぼすことが、医療の研究によって明らかになりました。
 じゃあ、どのように子どもをしつけたらよいのでしょうか。子どもであろうと、大人であろうと、人の心理と行動には関係性があります。正しいことを知ってさえいれば、人は正しく行動するわけではありません。注目された行為は続けようとするし、注目されなかった行為は減少します。これらは、幾つもの「ペアレントトレーニング」プログラムでも応用されています。それらの心理と行動の科学をもって子どもたちを「しつけ」ることが望ましいかかわり方です。それに、とっても楽です。


2. 子どもたちを「しつけ」る望ましいかかわり方とは

(1)日ごろから「良い関係を築く」

 誰だって、信頼している人の言うことには耳を貸します。「叱り方」を研究するなんてナンセンスです。日常の中で大事にされていると感じることがあれば、子どもたちはあなたの指示に簡単に耳を貸してくれます。どんなことが子どもとの良い関係になるのかというと、「子どものおしゃべりを『へ~、そうなの?それで?なるほど~』と聞く」、あるいは「寝る前に絵本を読む」、あるいは「髪を乾かしてやる」、あるいは「子どもの鼻をかんでやる」、あるいは「手を繋いで歩く」、「いっしょにお風呂に入る」等です。できれば、嬉しそうにすると効果は抜群です。

(2)好ましい行動を見逃さない

 実はこれが大事です。子どもが、「いいことをしている時には見逃してしまっている」のに、「悪いことをするとすっ飛んできて叱る」なんてついついやっちゃいます。でも悪いことをすれば、どんなに忙しい親だってすっ飛んできて自分に注目をして、時間を費やしてくれるとなれば、子どもはこれほどうれしいことはありません。だから、また同じことをしてしまうのです。これを逆手にとって、「子どもがよいことをしているところを探す」のです。例えば、部屋の中を静かに歩いている子どもに、「お部屋で静かに過ごしてくれてありがとう。」と、こんな感じです。例えば、弟に手を上げようか、どうしようかと迷っている瞬間の子どもに、「お兄ちゃん、今、我慢しようとしてたね。ママは見ていたよ。偉かったね。我慢できたね。」と、いう感じです。例えば、宿題をしている子どもと目が合った時、にっこりしてほっとさせることもよい行いに注目していることになります。だから、子どもはもっと集中力を伸ばします。

(3)ほめるためのルールづくり/ほめるためのやり直し

 子どもとのルールは、「簡単なものをできるだけ少なく」しましょう。目的は叱るためではなく、ほめるためです。だから、否定文だと叱らないといけなくなるので、親も余計に大変になります。でも肯定文のルールは、ほめてあげやすいので親も楽です。例えば、「部屋の中では歩きます」。例えば「ゲームは1日30分します」なんていうのもいいですよ。ゲームをしている時に「集中してるわね。」とほめてあげられます。ふざけているわけではありません。それほど目的が大事になるのです。

(4)わかりやすい指示を出す。やってくれたら「ありがとう」

 「ちゃんと」「きちんと」「しっかりと」は、子どもにはわかりにくい指示です。年齢に合わないハードルの高い指示も意地悪です。「靴は、玄関のすみに並べておいてね。」、「新聞紙は、テレビ台の下に重ねてね。」等、はっきりと指示を出しましょう。

3.おわりに

 ただし、子どもに指示を出すけど保護者はやらないのであれば、それは子どものしつけにはなりません。あなたが誰かを自宅に呼ぶときだけ片づけているのであれば、子どもも人のためには一生懸命する子になるかもしれません。でも、自分たち家族のためにはやらないかもしれませんね(笑)。
いずれにしても、保護者もまた、自分に大きな期待を持たずに、「まあまあ、そこそこ、だいたい」を目指しましょう。完璧をという非現実的な期待を持つと、子どもも保護者もつらくなる一方です。大事なことは、日常の暮らしを楽しむことです。
 

「心を鬼にするべきなの!?」~嫌悪刺激でしつける副作用~

平成31年1月26日

 わが子が将来、困らないようにと願えば願うほど、「宿題を後回しにする」、「片づけない」、「言葉遣いが悪い」など、気になって仕方なくなりませんか?優しい親でいてあげたいと思って、最初は優しく声をかけているのに、優しく言っていると全く効き目がなく結局は怒鳴ることになってしまうことはないでしょうか?

 そもそも、子どもに怒鳴ることや、罰を与えることに効果はあるのでしょうか。

 怒鳴ることも、怖い顔をしてみせることも、叩くことも、ゲーム機を取り上げて泣かせることも、実は、何ら効果がないことは多くの研究結果として判明しています。
一見、効果があったかのように見えるのは、子どもが嵐の通り過ぎるのを待っているだけなのです。そのようなやり方を続けていると、どんどん罰をエスカレートさせなくてはいけなくなってしまい事故や事件にもつながりかねません。もっと懸念すべき副作用は、叱りつけられたり怒鳴られたりした子どもは、たとえ事件の被害を受けても事故に巻き込まれてもとっさに「親に怒られる」と反射してしまい、被害者でありながら謝ってしまったり、誰にも言わずに物事がこじれてしまったりするなど多くの経験や理論から言えるのではないでしょうか。

 親にとっても副作用があります。それは親が「本気でキレる」までは子どもが不適切な行動をやめないことです。ゲームを止めさせるのに最終的には大声をあげ、手をあげる行動をとると、子どもは次から「大声をあげるまでは無視してよい」と学んでしまうのです。だから親は「何度言っても聞かない」「親を馬鹿にしている」と疲れ切ってしまいます。「怒鳴る」「叩く」「けなす」「恥をかかせる」などの嫌悪刺激は、子どもの人生にとっても、親の日々の大変さにとってもマイナスでしかありません。

 子育てに嫌悪刺激は使わなくてよいのです。よく「ほめて育てる」と言いますが、むやみにほめろと推奨しているのではありません。できるだけ親も楽をしてほしいからです。
 例えば子どもとのルールも、ほめるために作りましょう。「部屋の中では騒がない」というルールを「部屋の中では静かに過ごす」としておけば、静かな時にほめてあげられるでしょう。

次回は、「ほめて育てる」について、もっと具体的な話をしていきます。
 

人間関係のつくり方を学ぶ学童期 ~子どもは教えた通りに育つわけではない~

平成30年12月27日

 私は、人間関係トレーナーです。何か大きなトラブルや被害を受ける前に、できることを考えることが私の仕事です。

 特に、子どもが、安全に育つための予防教育をしています。年間、10,000人の子どもに「自分の心とからだを安全にする方法」や、「友だちを助ける方法」を教えています。子どもが、安全に育ち、暮らすための環境づくりをそれぞれの立場の人たちに伝えて23年になりました。

 私は、多くの子どもから、たくさんのことを学びました。そして、子どもの目に親の姿がどう映るものなのか、子どもの耳にはおとなの言葉がどう聞こえるものなのか、教えてもらいました。

 おとなと子どもの架け橋をお仕事にしているのです。

 

 そんな私が、「親にとって一番、大切なことは何ですか?」と聞かれたら、迷わずにこう言います。「あなたが、まぁまぁ幸せに、そこそこ健康でいること」と。

 世界が広がっていく学童期の子どもは、日々、たくさんの刺激を受けています。楽しくても楽しくなくても、面白くても、難しくても、子どもにとって毎日が刺激の連続なのです。そんな彼らが、のびのびと自分の感覚に従って成長、発達していくためには、「危険な時に必ず守ってくれると思える誰かが、しっかりとそこに居てくれること」ほど大切なものはないのです。あなた(保護者)自身が、ご自分を大切にして暮らしてくださることほど大切なものはありません。

 私は、「あなた」の手を握り、目を見つめ、伝えたいことがあります。「よくここまで育ててきてくださいました。大変なこともあったでしょう?ありがとうね。」と。

 

 学童期はもう親だけで育てられる段階ではありません。「自立」という「長期目標(30歳目安)」に向かって、今、大事にするものは何なのか、これから、この講座でお話を進めてまいりたいと思います。