山下 雅子 先生

思春期における「現代を生きる子どもたちへ〜自己肯定感を育むための理解と関わり方〜」④

令和3年7月21日

 蒸し暑い日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。 

 このWEB講座も最終回を迎えました。本講座では、思春期のお子さんの自己肯定感を育むためのタイムマネジメントの取り組み方と関わり方についてお話ししました。

 思春期のお子さんとのカウンセリングは、思春期ならではのテーマがあります。それが「家族への想い」です。「家族への想い」とは、家族への労いや感謝、不合理さや矛盾(大人は失敗しても責められないのに、自分が失敗したら責められるなど)です。思春期を迎え、自分と他者との違いに気づく中で、「家族」にはそれぞれの考え方があり、大人にも不完全なところがあることに気づいていきます。思春期のお子さんにとって、この違いをどう捉えるかが大きなテーマとなります。

 相手の不完全さや違いを「許せるか」「許せないか」の根幹に、お子さんが自分自身の不完全さを周囲から許容されてきたか、また、どのようにその不完全さを補ってきたかという経験による学習が関係しています。

 例えば、「寝坊する」「忘れ物をする」など、日常的な不完全さを「だらしない」「大人になったら困るぞ」と“結果だけ”を責められ続けていると、“不完全さは自分の責任”“不完全な人間は責められるべき”“間違ってはいけない”という<考え方>を身につけていきます。

 <考え方>は生まれつきのものではなく、お子さん自身の経験や周囲の大人の常日頃の考え方を見聞きして身につけます。これを認知行動療法では「考え方の癖(自動思考)」と言い、お子さんの生きづらさに関係している場合は、その「考え方の癖」に気づき、他の考え方はないかをカウンセリングで話し合っていきます。このカウンセリングで「考え方の癖」を責めて改善することはせず、他の考え方がないかをあれこれと検討します。つまり、原因探しではなく解決志向で生きづらさを軽減する<考え方>について話し合っていきます。

 子どもの考え方だけを変えようとしてもなかなか変わらないこともあります。そんな時は、子どもの考え方だけを変えようとせず、大人から考え方をしなやかに変えてみることもお薦めです。

 これからも大人から見て、子どもの考え方が許せないと思うことがあるかもしれません。しかし、そうせざる得ない子どもの言動を理解し、その上で他のやり方がないかを考えていくことで、子どもたちの生きづらさが減り、伸び伸びと成長することを願っています。

 この講座が少しでも保護者の皆様のお役に立てているようでしたら嬉しいです。

 最後までお読みくださり、ありがとうございました。

 

思春期における「現代を生きる子どもたちへ〜自己肯定感を育むための理解と関わり方〜」③

令和3年6月22日

 夏日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。
 さて、今回は「大人の言うことを聞けない思春期のお子さんへの理解と関わり方」についてお話しします。
 客観的に物事が見えるようになる思春期の子どもたちにとって、大人の意見を鵜呑みにしないことは、自分の意見を持っている健やかな成長とも言えます。例えば、「母は〇〇がいいと言うけれど、私は□□がいいと思う」など、普段の買い物から進路相談まで様々な場面で<親子でも意見は違う>ことを経験されておられるのではないでしょうか。

①大人と意見が異なるお子さんとの関わり方
 親と異なる意見も、同じ意見も自分の言葉で言えるお子さんは、「考える力、伝える力」がついています。
 そのままお子さんの意見を尊重してあげられる場合はいいのですが、「苦手な教科だから勉強しない」「学校がつまらないからやめる」など極端な意見や「友達とのつき合いがあるから夜遅くても、即SNSの返信をしないと」など、友達の意見に振り回され、自分のことが常に後回しになることや場当たり的になっていることもあります。
 これらは大人から見ると安直な判断、失敗を招くような判断でありますが、あれこれ口を出すのも…と悩まれることもあるのではないでしょうか。
 <失敗から学ぶ>こともありますので、お子さんの判断にとことん付き合う方法もありますが、もう一つの方法として「メリット・デメリット分析」があります。お子さんが選んだ意見が、今のお子さんにとってどのようなメリット、デメリットがあるのかを書き出して観察してみる方法です。書き出していくと、大きなデメリットが見つかることがあります。例えば、友達と仲良くしたい気持ちの根底に「仲良くしないと陰口を言われるのではないか」と感じていたなど、お子さんの不安が隠れていたりします。 
 この時のお子さんへの関わり方の大切なポイントは、お子さんがデメリットの大きさに気づいた時も「子どもの主体性を尊重すること」です。「ほら!お母さんが言った通りじゃない!」と、言いたくなる気持ちはよく分かります。しかし、前回、お話ししたように子どもはいずれ自分の生き方や時間の使い方を選び取っていかなければいけません。自分で選び取る力をつけるために「よく気づいたね」「そんな考え方もあるね」と、お子さんが気づけたことや考えたことを伝え、自らデメリットを見直すきっかけを与えましょう。

②“どうせ自分は無理”と感じているお子さんへの関わり方
 これまでの様々な経験から、自信をなくしているお子さんや無気力状態のお子さんに見られる傾向です。今まで自信があったお子さんでも、大きな挫折経験は自信をなくすものです。
 自信を取り戻すために、安全基地となる身近な大人がその子を信じてあげることが必要です。子育てのいいところは、やり直せるところです。お子さんが自信をなくしたり、無気力になったりしていることを「私の子育てのせい」と考え過ぎず、どうしたらお子さんが自信を取り戻せるのかを考えていきましょう。
 方法としては、どんな小さな内容でも、今、お子さんができている行動や続けている行動を褒めるところから始めましょう。行動には「試験で100点を取った」など目に見える<結果行動>と、「試験前に勉強していた」「明日の試験に備えて徹夜せずに寝た」「友達からの無理な依頼を断ろうと考えた」など、結果に辿り着くまでの“考え”を含む<プロセス行動>があります。特に自信が持てないお子さんには、この<プロセス行動>を認めたり、お子さんが当たり前のように行っている生活に必要な行動(食事を摂る・服を着替える・睡眠を取る)ができたら褒めたりしてあげましょう。
 また、自信をつけることを目的としたタイムマネジメントも行ってみましょう。9割程度できる計画を立てることから始めて、「自分で立てた計画が実行できた」経験を重ねていくことで、少しずつ自信を取り戻していくでしょう。
 思春期のお子さんは、相手の反応に敏感になっている時期でもあります。褒める時は大袈裟になり過ぎず、“さりげなく”褒めて、お子さんが自分の行動を観察しやすい環境を整えましょう。

 

思春期における「現代を生きる子どもたちへ〜自己肯定感を育むための理解と関わり方〜」②

 

令和3年5月27日

 今年の梅雨入りは早かったですね。季節の変わり目は特に体を労ってあげたい時期です。
 さて、今回は「その子らしい時間の使い方をサポートする意義と方法」について、お伝えします。

1)「家庭学習の時間」「睡眠時間」を見直しましょう
 「帰宅すると疲れてダラダラしてしまう」「勉強もしなきゃいけないのは分かるけど、ゲームもしたい」「宿題が多すぎて徹夜になった」 「朝、自分で起きられない」など、子どもたちの家庭での時間の使い方の相談がよくあります。
 思春期の子どもにとって下校から翌日の登校までの時間は、自分でマネジメントできる貴重な時間です。学習など“やるべきこと”ばかりでその時間を埋めてしまうと、自分がしたいことができず折角の学習も“やっつけ仕事”になってしまいます。また、「徹夜ですればいい」というのもお勧めしません。睡眠不足などセルフケアを怠っていると、体調だけでなく、考え方もネガティブになり落ち込みやすくなるなど、自分を大切にすることが難しくなります。ですので、お子さんに必要な「睡眠時間はどれくらいか?」「睡眠や食事など生きるために必要な時間を除き、学習時間はどのくらいか?」を客観的に知ることが大切です。

2)主体的な時間の使い方と自己肯定感の関係を知りましょう
 学校生活では、時間割があり、その日1日何を学ぶかが決められている、いわば“受動的に”時間を使います。確かに効率よく学ぶためにはカリキュラムが必要です。一方で、“受動的に”ばかり時間を使うと、「余暇活動ができない(疲れを取るなどリフレッシュができない)」「作業の段取りができない」などのデメリットもあります。時間の使い方にも柔軟性(その子らしさ)が求められます。ですので、思春期のうちにお子さんが主体的に時間の使い方を学ぶことで、能動的で豊かな人生を歩んで欲しいと思います。
 高校生を対象とした「時間の使い方を学ぶ授業(タイムマネジメント)」を実施し、その前と後での効果測定をしたところ、「作業にかかる時間の見積もり」ができるようになり、自己肯定感の低い子どもの自己肯定感が高まったという結果となりました(山下・稲田,2020)。
 この結果から、子どもたちが「その子らしい時間の使い方」を学ぶことは、自己肯定感を高める一助になるのではないかと考えています。

3)お子さんに合う「時間の使い方」を観察しましょう ―タイムログ(記録)の取り方―
 宿題が終わる時間が「学習時間」、眠たくなった時が「入眠時刻」となっていませんか?宿題にかかる時間、睡眠に必要な時間は個人差があります。確かに宿題は優先すべきことですが、その宿題が終わらず、睡眠時間が十分に確保できず、睡眠不足の状態で授業を受け続けると、集中力も低下し、効率よく学習することも難しくなります。
 そこで、帰宅して宿題や学習にどのくらい自分が時間を使っているかの“見える化”をします。たて系列に時間軸、横系列にその日にやったこと(行動)を書く「バーチカル」を準備します。(記録用バーチカルをご活用ください)最近では、バーチカルを使った生徒手帳もあります。そこに、実際にその日は何にどれだけ時間を使ったかを、お子さんの行動が見えるように書き出します。
 “わざわざ書き出さなくても分かる”と思われるかも知れませんが、自分の行動を書き出してみると隠れた”自分の時間の使い方のクセ“に気づきます。これまで「行動ログ(記録)」をとったお子さんから「寝る前の友達とのS N Sで、寝つきが悪くて必要な睡眠時間が取れなかった」「やることが多すぎると思っていたけど、取り掛かるまでの時間が長かった」との報告がありました。
 このタイムログ(記録)は、子育てや仕事に忙しい保護者の皆さんにも好評で、「やることが多すぎてイライラしていた」「タイムログ(記録)を見直し、家事の分担をして、時間も気持ちも余裕を持てた」などと言われています。まずは、保護者の皆さんから普段の1日のタイムログ(記録)を書いてみませんか?
 次回は、なかなか大人のいうことを聞けない思春期のお子さんへの理解と関わり方についてお話しします。

引用文献 山下雅子・稲田尚史(2020)専修学校における時間管理プログラムの効果 ‐思春期の自己肯定感に注目して‐福岡県立大学心理教育相談室紀要 (12), 47-55

 

(バーチカル記入例)
Verticalkinyuurei.jpg
(バーチカル用紙)
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思春期における「現代を生きる子どもたちへ〜自己肯定感を育むための理解と関わり方〜」①

令和3年4月20日

 皆様、はじめまして。今回から思春期編を担当させていただく山下です。

 日頃は、思春期のお子さんや保護者さんのお話を、学校やクリニックなどでお伺いしています。

 思春期のお子さんは体と心の発達に伴い、相談内容も異なってきます。

 小学生の頃は「〇〇が嫌だ」「△ができない」など、お子さん自身が「困った状況」を伝えてくることが多く、その困った状況を解決するための「対処法(コーピング)」をどうやって身につけていくかが大事なポイントになります。一方で、思春期のお子さんは、すでに「自分の対処法」を持っていることも多いです。

 例えば「宿題の締め切りに間に合わないから、最初からやらない」「やることが多すぎてイライラするから、物に当たった」などです。このような子どもたちの「対処法」は、保護者の皆様から見ると「ただ怠けているだけ」「反抗期だから仕方ない」と思われるかもしれません。

 しかし、子どもたちに「この対処法」を実行した気持ちを聞くと、「やっぱり私はダメだ」「やれない自分が悪い」と、自分を責めていることが多いです。

 また、現在、子どもたちが置かれている状況を知る一つとして、昨年9月から12月に国立成育医療研究センターが行った調査によると、高校生の約3人に一人が中等度以上のうつ症状を抱えていることが分かりました。特に、「就寝時間が遅くなった子どもの増加」「テレビやスマホ、ゲーム機の使用時間の増加」など、時間の使い方にも影響が出ているようです。

 次回から、子どもの自己肯定感を育むための「時間の使い方」について、私たち大人ができることを皆様と一緒に考えていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。