荒牧 直子 先生

保護者にできること

令和3年3月29日

 前回まで、ゲーム・スマホ・ネット利用によるお子さんへの心身への影響、特に依存症の心配についてお話してきました。

 あまりにも有名な話ですが、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツなど、IT企業の創業者らには、自分の子どもにデジタルツールを渡さなかった人がたくさんいることも紹介しておきます。ジョブズは子どもにデジタルを与えなかった理由を問われて、「子どもの創造性を奪うから」と答えたと言われています。彼らはデジタルツールが子どもに与える危険をよく理解していたのかもしれません。私は、子どもにデジタルツールを自由に使わせるのを遅らせるという選択もあるし、使わせるにしても与えっぱなしは危険だと考えます。

 ですから、子どもにネット、ゲーム、スマホを使わせるときには以下の3つを、保護者の皆様にお願いします。

①子どもが何をしているか見守る
(案外、年齢制限を超えてゲームをしていたり、知らない人とつながっていたりします)
②子どもと一緒に正しい使い方を考える
(大人の使い方や振る舞いが子どもの見本です)
③保護者が相談できる場所を普段から準備しておく

この3項目の前提として、「お子さんと対話しながら」が必須です。

ゲーム・ネット以外のことにも当てはまると思います。

 中学生に向けて講演する際、心身への影響を話した後、その影響を少なく(影響がゼロではない)するにはスマホ・ネットの使用時間は1時間以内だと伝えます。そのうえで、ネットの使い方(マナー・法律を守る)、自分を守る生活習慣(睡眠の時間と質など)、使用時間の見直し(1日の総使用時間やよく使うアプリ、使用時間を減らすための習慣作りなど)を提案します。最後に「困った時、失敗した時は早めのSOSが大事だよ。話したら迷惑だなんて思わないで」とお願いをします。「相談なんてムリ」と聞こえてくることがあります。「『相談』がイヤと思うなら『解決のための説明』に置き換えて!」と重ねてお願いをします。

 先に述べた「対話しながら」が普段できていると、保護者に相談することのハードルが下がると思うのです。「対話」に欠かせないのが、相手の話を聴くことなのですが…

 9年前の春、中学に入学したばかりの長男が「A君が100円ライターを改造して、スタンガンを作ってきたんよ」と私に言ったのです。みなさんなら、この後どうされますか?

 長男がバチバチとスタンガンを当てられているところを勝手に想像し、挙句「先生はそれ、知っとーと?」と少しキレ気味に言い放つ私…。長男はため息まじりに「お母さんには話さんかったら良かったわ…」と。全くもって、残念な対応です。後から冷静になると、「A君という新しい友達ができた!」「A君ってすごい!」というようなことを、話そうとしてくれたのかもしれないのに…話の続きを聴けばよかった…これじゃぁ、困った時に相談なんてしてくれないな…「へー、それで?」となぜ言えなかったのか、と思い至るのですが…。今でも悔やまれる私の失敗です。

 どうか、お子さんが「あのね」と言ってきたら、お忙しいでしょうが、耳を傾けてください。「対話」の大切なはじまりです。ゲーム・ネットに限らず、これはとても大切なことです。自分の話を聴いてくれない大人に、いざ困った時、相談しようとは思いませんものね。

 先の失敗を悔い改めた私は、たあいもない子どもたちの話を聴き続けました。「給食に嫌いなものが出た」「○○先生の話がチョー長い」など、「はぁ」「ふ~ん」「へー」「ほー」(「ひ」抜きの「は行」で相槌を打つとよいそうですよ)と案外、楽しく聴けるのですが、時には「学校に行きたくない」「高校は行かないかんのかね?」と、びっくりするものもありました。あわてず、「そうなんやね、どうしよっか?」と一緒に考えたこともあります。口数が少ないと、「どうしたのかな?」と変化に気づくこともあります。

 お気づきとは思いますが、私も試行錯誤しながらどうにかこうにか子育てしています。その中でも、電子映像メディアが子どもに及ぼす影響について、どなたにも知っておいていただきたいことをこの講座でご紹介してきました。

 ただでさえわからないことの多い子育てがコロナ禍に見舞われ、戸惑う方が多くいらっしゃることでしょう。

 本講座がお読みいただいた皆様の子育てに、少しでもお役立ていただければ幸いです。

 最後までお読みいただきありがとうございます。

スマホ、ゲームと学力

令和3年2月12日

 突然ですが問題です。次の4つのうち、テストの点数が一番高いのはどれでしょう。

 A 平日に学校以外で2時間以上勉強し、スマホの使用は60分以内の子どもたち
 B 平日に学校以外で2時間以上勉強し、スマホの使用は4時間以上の子どもたち
 C 平日に学校以外で30分以下勉強し、スマホの使用は60分以内の子どもたち
 D 平日に学校以外で30分以下勉強し、スマホの使用は4時間以上の子どもたち

 (H25年 学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト:仙台市、約7万人の小中学生対象。うち、中学2年生数学について表示)

 1位はご想像通りA・75点。では2位は?やはり2時間以上勉強しているB?いいえ、C・64点、以下B・57点、D・48点の順です。つまり、スマホを4時間以上すると、毎日2時間以上勉強していても、スマホをしない子に負けてしまうということなのです。

 さらに、勉強時間と睡眠時間をそろえて比べても、スマホの時間が増えるにつれ成績が低下するので、やはりスマホ自体の影響と考えられます。

 実はこの理由はよくわかっていません。電磁波、ブルーライトなど仮説があるだけです。アプリ自体の影響という説もあります。アプリで言えば、ゲームもSNSも同じように成績を低下させますが、なかでもLINEの場合には、1時間という短時間使用でも成績の低下が明らかで、特に注意が必要とされています。色々ある仮説の中でも特に気になる、依存症の専門家から出てきた仮説について、簡単に紹介します。

 具体的には、
 ・ネットやゲームをやめようと思ってもやめられない。
 ・日常生活より、ネットやゲームを優先してしまう。
 (ネットやゲーム中に話しかけられるとイライラする)
 ・朝起きられなくて困るのに、夜、やめられない。

 こんなことを依存症といいます。

 ちなみに、ゲームの依存症は「ゲーム障害」として2019年5月25日にWHOにおいて疾病認定されました。

 脳ではこんなことが起きています。
 ・前頭葉、前頭前野の障害として、キレやすい、感情的になる。
 ・脳内に分泌されるドーパミンの障害として、好きなこと、やりたいことがなく、やる気がないということが起こる。

 そして、脳全体で考えられないという状態になります。

 1.ガマンしたくてもがまんできない、2.頑張りたくても頑張れない、3.考えようとしても考えられない…「3ない人間」という表現もあるそうです。

 だから、成績が下がるのではないかという仮説です。しょっちゅうスマホなどをして依存症のようになっていると、勉強していても注意が保てず、学習効率が落ちてしまいます。いくら勉強しても、教科の内容そのものへの興味や好奇心を感じることができず、単なる作業になってしまいます。それでは成績は伸びにくいはずです。

 では、どうすればいいのか。小学生には、「テレビやゲーム、スマホの時間を1日合計2時間までにしてね」、中学生には「スマホは1日1時間までがおすすめ」とお願いしています。そして、私たち大人は、良い手本になりましょう。子どもは大人がしているようにします。大人に「しなさい」と言われたようにではなく。相手を真似ることで学ぶのが人間ですものね。まずは、ゲーム・スマホ以外のことに使う時間を増やす、早く寝る。前回、前々回の記事に戻って…いつでも始められます。

参考文献 
1)山中憶良・倉石宗徳(2019)スマホを持たせるのは遅いほうがよい ―リアルで遊ぶ、心が通う。家庭でできるデジタル障害予防法―. 一般社団法人スポーツアカデミー.
2)アンデシュ・ハンセン(2020)スマホ脳. 新潮新書.
3)NPO法人子どもとメディア(2020)デジタル社会と小学生(中学生)~ 大丈夫?あなたのからだと心 ~[DVD].NPO法人子どもとメディア

早寝のすすめ

令和3年1月21日

 一部訂正のうえ、再掲載しました。
  ②朝ごはんを食べるの2行め
  正:私は、前夜に味噌汁やスープを多めに作り、そのまま朝食でもいただきます。
  誤:私は、前日の夕食を多めに作り、そのまま朝食でもいただきます。
  

 5年前、長女が中2だった学級懇談会でのことです。担任の先生が保護者に向けて「とにかくお子さんを早く寝かせてください。早く寝られないなら塾をやめさせてください。」とおっしゃいました。教室は、戸惑いの空気に包まれた気もしましたが、私は『ついにこんなことを言ってくださる先生が現れた』とうれしくなったのを覚えています。今では、しっかり眠ると、学んだことが身につくことは、多くの方がご存知でしょう。これは、いったん脳の海馬に取り込まれた「今日」の情報が、眠っている間に、大脳皮質に記憶として保存されるためです。また、夜更かしする子どもは体温リズムが狂うこともわかっています。通常、体温は朝から夕方にかけて上がり、夕方から夜にかけて下がります。おおむね学校にいる間、体温は右肩上がりで、勉強も運動もしやすい、いわゆるパフォーマンスが高い状態にあります。ところが、夜更かしをすると、この体温変化が後ろに数時間ずれ込みます。中学生にこの話をすると、「確かに平日の部活は調子がいいのに、土日の練習試合ではイマイチ」という声が聞かれます。試合は朝からですから、体温変化のリズムがずれていると、体温が上がり始めるのが遅れ、持っている力を発揮できませんね。受験だって朝からです。十分、力を発揮できるよう、子どもには質・量ともに良い睡眠をとらせたいですね。そのためのご提案を3つ。

①朝の光を浴びる
 朝の光を浴びると脳が目覚めます。
 起きてから14時間後にメラトニンという眠くなるホルモンが出ることがわかっています。

②朝ごはんを食べる
 よく噛むことで、脳が目覚めます。
 朝食の準備に時間をかける必要はありません。私は、前夜に味噌汁やスープを多めにつくり、そのまま朝食でもいただきます。毎日です。私の母に至っては、朝食の献立は、目玉焼き、焼き魚、味噌汁、納豆、のり、漬物と決めていました。朝から魚を焼くなんて、私にはとてもまねできない手間ですが、献立を考えなくていいというのはとても気楽ですね。冷凍食品や、コンビニも便利です。余談ですが、母は「日曜の夜はカレー」もお決まりでした。味を変えれば、シチューや、豚汁にもなると教わりました。

③夜寝る時刻を決める

 高学年でも、遅くとも10時を目標に、寝る時刻を決めます。それに合わせてスケジュールを立てます。この話をすると、小学生でも、「習い事や塾などで無理」という声が上がるのが現実です。ちゃんと眠ると、今日学んだことが記憶として整理されるという話もしているので「せっかくの勉強や習い事も、ちゃんと寝ないともったいないからね。出来るだけ早く寝てね」とお願いしています。また、寝る2時間前には電子メディア機器を使用しないことも心がけます。なぜなら、ブルーライトが脳を昼間と勘違いさせるからです。そして大人も、早く休みましょう。「無理!」という声が聞こえてきそうです。私は大病をしてから早く寝るようになりました。それまでは、家事を終わらせねばとか、夜更かししてお気に入りのブログをチェックするなどしていたのですが、今では9:30には布団に入ります。これには、老若男女に驚かれます。しかし、夕食後のままのキッチンや、たたんでいない洗濯物、散らかったリビングなどは目を瞑ればもう見えません。明日の朝の、元気を取り戻した自分にお任せしたほうが、案外はかどります。

 以上3点、お試しください。時間もお金もかかりません。

 最後に、私の体を定期的にメンテナンスしてくれる整体師さんの言葉です。

「睡眠を削るのは命を削るに等しい」。

参考文献 清川輝基・内海裕美(2018)子どもが危ない!スマホ社会の落とし穴.少年写真新聞社

冬休みの過ごし方

令和2年12月14日

 今年は家にいる時間が長かったと思うのですが、お子さんは長い休校中どのようにお過ごしでしたか?ゲーム・スマホの時間が長くなり、そのために生活リズムがくるって心配されたかたもいらっしゃるのではないでしょうか?そしてまた、冬休みがやってきます。取り急ぎ、その過ごし方についてご提案です。

 お子さんがゲームやスマホばかりで困る、何とか取り上げるか、使う時間を減らしたい…とお考えでしょうか?目に悪い?そうです、スクリーンタイム(電子映像メディアに触れる時間)が長いと、実は脳・目・耳・首・手・腰・足に影響が出ます。しかし、魅力的なゲーム・スマホですから急に手放せとか時間を減らせなんて、言う親も言われる子もしんどいです。そこで「ゲーム・スマホの時間を減らす」ではなく「ゲーム・スマホ以外のことに使う時間を増やす」という発想の転換をおススメします。普段の家事やガーデニング、ペットの世話や、お菓子作り、手芸、DIY、散歩…。誘いに乗ってこなくても家族がそれに夢中になっている気配があるだけでも良いのです。今年の長期休校中の知人の例では、千ピースのジグソーパズルに家族で挑戦した、草取りをお願いしたら大人がするよりきれいになった、極めつけは、釣り好きのお父さんが、お子さんを誘ったらすっかりはまってしまった…思い通りにならない自然相手に、獲物はゲットできるかどうか分からない、釣り上げるまで正体も分からない、この楽しさに目覚めたらしいのです。ホンモノを知った彼は心配するほど夢中だったゲームにはもう向きもしないのだとか…親子で同じものに夢中になれるなんてますます楽しいですね。

 そしてもう一つご提案です。お子さんがぼんやりしている時はぜひ、そのままにしてあげてほしいのです。なぜなら、そのとき脳はデフォルトモードネットワーク(前頭前野の内側や後部帯状回など)を働かせ、それまでに取り込まれた情報の整理をしているからです。むしろ、ぼんやりしているときのほうが、仕事や勉強しているときよりも15倍以上ものエネルギーを消費しているという研究もあるそうです。本来、ぼんやりするはずのときにゲームやSNSをすると、脳へのインプットが増えすぎるとともに、情報を整理する時間が奪われてしまい、その結果、新しい作業ができなくなるのではないかと考えられています。オーバーフロー脳と呼ぶ人もいます。大人ですらそうですから、子どもの場合には成長への影響もあり特に心配です。

 この、2点をやってみていただきたいのです。発想の転換で親子の思い出作りにもつながると思います。どうぞ楽しい思い出深い冬休みをお過ごしください。

 

 参考文献 山中憶良・倉石宗徳(2019)スマホを持たせるのは遅いほうがよい ―リアルで遊ぶ、心が通う。家庭でできるデジタル障害予防法―. 一般社団法人スポーツアカデミー.