中藤 広美 先生

子どもの望ましい行動を育む(はぐくむ)~Step4:「褒め方のコツやポイント」~

平成30年11月21日

はじめに

前号では、タケル君(仮名)が起きてくることができるための手助けと環境調整を考えました。するとタケル君は泣くどころか「おはよー。」と機嫌よく起きてくるようになりました。
最終回の今回は、子どもの褒め方のコツやポイントについてお話をします。
皆さんはお子さんをどのように褒められていますか。


どうして困った行動が繰り返されているのか

まずは、子どもがなぜ困った行動を繰り返すようになったのかを知っていただく必要があります。行動理論という考え方によると、「偶然、学習して身についた行動」ととらえられます。人は、自分が何か行動をした時、直後に発生した結果によって、その行動を強めたり弱めたりします。
例えば、お手伝いをして褒められると、お手伝いを繰り返そうとします。一方、何度も叱られるのに、同じいたずらを繰り返すことがあります。これも同じ考え方です。いたずらをした直後に、親が叱るという行動で子どもに注目をし、子どもは無意識のうちに親に構ってもらえたと受け止め、いたずらを繰り返してしまいます。

このように、やめさせようと思って叱ることがかえって困った行動を繰り返させてしまうということが少なくありません。


タケル君が毎朝、目覚めて泣き叫ぶようになった理由

そこで、タケル君のことを例にあげて考えてみましょう。
タケル君が毎朝、泣き叫ぶとママがタケル君のもとに駆けつけてくれます(図1)。じつはこの一連の行動の流れがタケル君の困った行動である毎朝目覚めて泣き叫ぶようになった理由です。「泣いたタケル君の元にママが駆けつけた」この行動がタケル君に毎朝泣き叫ぶ困った行動を繰り返させていたのです。つまり、泣くとママが駆けつけてくれるというメリットがあることをタケル君は学習してしまいました。

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  図1

 このように、親が良かれと思ってやっている行動も、時には子どもが困った行動を繰り返してしまう原因になることがあります。
 皆さんの中には、良かれと思って子どもを叱っているのだけれど、一向に子どもの困った行動が良くならないという方はいないでしょうか?その場合は、図1の一連の行動の流れにご自分の行動を当てはめてみてください。良かれと思ってやっている行動が逆効果だということに気づくことができる場合があります。

 
褒め方のコツやポイント

 そこで、困った行動を減らすためには、図2のように図1とは違う行動の関係性を作ります。
 前回でもお話ししましたが、タケル君が泣かずに起きてこられるような環境調整や手助けの仕方を工夫し、泣かずに起きてきたところを褒めるような工夫が必要となります。

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  図2

 「成功できるような条件を整えてあげて、すぐに褒める。褒めることを後回しにしない。」ことが褒め方のコツです。
その大前提に、前回お話しした環境調整や手助けの工夫をして子どもが望ましい行動をとりやすくしてあげることを忘れないでくださいね。 
褒め方のポイントは、

1)褒める内容は子どもが喜ぶ「こと」や「もの」
褒める内容は大人本位で決めずに、子どもと相談しながら決めると良いですね。
タケル君の場合は「褒め言葉とごほうびシール」でした。高価なものは必要ありません。
パパやママとの関わりの中で褒めることを意識してみましょう。

2)できた時にすぐ褒める                    
すぐに褒めることで、褒められた行動がわかりやすくなり効果的です。これを心理学では「即時強化」と呼んでいます。

3)子ども自身が何を褒められているかわかるようにする
「おりこうね」「えらいね」だけでは、何が良いのかわかりません。そこで、「泣かずに起きてきてえらかったね!」と、具体的に言葉で短く表現して褒めます。

4)シールなど物をあげるときには、子どもが自由に入手できないようにする
シール一枚でも大人が徹底して管理すると、そこに付加価値がつきとてもうれしい物になります。逆に、子どもの手に入りやすいものだと、ありがたみがなくなり効果が減ります。

5)褒められるように手助けをしてあげる
うまくいかなくても、できるように手助けをしてあげてください。最初のうちは、全て大人がしてあげても、できたことを一緒に喜ぶようにしてみましょう。これが成功体験の第一歩です。

 子どもが成功できるような環境調整や手助けをし、うまくいったらすぐに褒めることを心がけてください。その時には5つの褒め方のポイントを思い出しながら褒めることを実践してみてくださいね。そうすることが、子どもの望ましい行動を育むことにつながります。

今回で私の担当講座は終了します。
Step1からStep4までの講座内容を思い出しながら子育てを実践していただけると幸いです。そして、子どもも親も心がホッコリとし、笑顔がたくさんの毎日が送られますように。


 


 

子どもの望ましい行動を育む(はぐくむ)~Step3:「手助けと環境調整」~

平成30年10月11日

はじめに

 前号では、タケル君(仮名)の様子をよく見ていると、彼の泣き叫ぶ理由が「ママに来てほしい」ということがわかりました。理由がわかると、対策を立てやすくなります。
 今回のStep3では、タケル君が毎朝泣かずに起きられるようにするための「手助けと環境調整」についてお話をします。

泣かずに起きられるためにしてあげること

 皆さんは、どうすればタケル君は泣かずに起きられると思いますか?
 実は、「褒める」とよいのです。

 しかし、「泣いている時にどうやって褒めるの?」と思った方がおられることでしょう。
 そのためには、タケル君が泣かずに起きられるように手助けや周囲の環境を整える必要があります。そして、タケル君が泣かずに起きてきたところをすかさず「褒める」のです。つまり、タケル君が、「泣かないで起きる」という成功体験をするために、手を差し伸べてあげるということです。
 結果、タケル君は、翌日から泣かなくなりました。
 子どもは、自分でできた行動を褒められ、認められたことが実感できると、その行動を喜んで行います。そして、その行動は継続しやすくなるのです。

「褒める」ための手助けと環境調整

 お母さんが行った「手助けと環境調整」は次の3つです。

 1.タケル君が、早寝早起きするよう工夫した。

 2.タケル君が目覚めた時に、お母さんは台所で待っていてあげた。

 3.朝起きてきたら、ごほうびに金ぴかシールを貼ってあげた。

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 親が、どのように対応すれば、子どもは困った行動ではなく褒められる望ましい行動ができるのかを冷静になって考えることが大切です。

 子どもは、自分が成功体験をすると嬉しいものです。さらに、そこで、大好きなお父さんやお母さんに褒められるともっと嬉しくなります。それが、子どもの自信につながり、望ましい行動を身につけやすくします。だからこそ、子どものことを「褒めて」あげることができるように、「手助けや環境調整」をすることがとても大切になってきます。

 1.お子さんが困った行動をした時には、まず、その行動の意味(原因)を考えます。

 2.次に、行動の意味に対応した手助けや環境調整を行います。

 3.最後に、できたことを褒めます。

 親は、子どもが困った行動を起こしてから、状況を何とかしようと頑張りがちです。しかし、子どもが困った行動を起こす前に、原因を改善する「手助けや環境調整」を行って褒めることが、「望ましい行動」ができるようになるポイントなのです。

 次回は、困った行動が繰り返される理由と、子どもを褒めるときのコツやポイントについてお話をする予定です。 

イラスト『ペアレントトレーニング実践ガイドブック』あいり出版より

 

「子どもの望ましい行動を育む(はぐくむ)~Step2:子どもの行動には意味がある~」

平成30年9月20日

はじめに

 今回からは、私が実践しているペアレントトレーニングで取り組んだ事例:保育園に通っている年長さんのタケル君(仮名)のことを例にあげて「子どもの望ましい行動を育む」ことについて考えていきたいと思います。

 毎朝、タケル君は、目覚めると泣き叫んで、お母さんやおばあちゃんがその対応に手こずっていました。共働きのお母さんは、早く保育園にタケル君を連れて行きたいけれど、それどころではありませんでした。タケル君は、来年から小学生です。ご両親や祖父母は、「このままだと小学校に行けるのか」と心配されて、ペアレントトレーニングに相談に来られました。

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どうしてタケル君は朝から泣き叫ぶのでしょう

 原因を探るため、タケル君が、目覚めた時の様子をビデオで拝見しました。彼は目覚めてすぐは泣いておらず、小さな声で「ママ・・・ママ」とお母さんを探していました。お母さんはというと、出勤準備で大忙しで「ママ」と呼ばれても構ってあげられませんでした。そして、ついにタケル君が大声で泣き叫びだすと、無視できなくなって「タケル、また泣いてどうしたの?」と駆けつけていたのです。

 このようなやり取りが、毎朝のように続いていました。

 

タケル君の気持ちはただ「ママに来てほしい」だけ

 仕事をしていてもしていなくても、大人の朝は大忙しです。朝、目覚めたタケル君は、ママに来てほしかっただけなのです。ママは、タケル君に「ママ」と呼ばれるだけで困ることはありません。ママは、タケル君を無視して出勤準備を続けていました。しかし、タケル君が泣き叫びはじめると、とうとう無視できなくなって抱っこをしていたのです。

 これらのことから、毎日、タケル君が泣き叫んでいた行動を分析すると、タケル君には、「泣き叫ぶとママが来てくれるという関連性」が続いていたようでした。(この「関連性」については、シリーズ4回目で詳しく説明します)。つまり、タケル君が泣いている行動の意味は、「ママに来てほしい」なのだと推測できます。

皆さんの中には、子どもが泣くと「泣かないでちゃんと言葉で言ってごらん。」と日頃からお子さんに教えている方がいると思います。このしつけは、とても大切なことですが、もっと効果的な方法があります。それは、泣く前に子どもが求めていること(行動の意味)に気づき、対応をしてあげることです。そうすることで、子どもの「困った行動」ではなく、「望ましい行動」を育むことができるのです。

 皆さんなら、こんな時どのように対応しますか。次回は、タケル君が泣かずに気持ちよく起きてこられるための「手助けと環境調整」についてお話をする予定です。

(イラスト『ペアレントトレーニング実践ガイドブック』あいり出版より)

「子どもの望ましい行動を育む(はぐくむ)~Step1:ペアレントトレーニングの考え方~」

平成30年8月20日

はじめまして

 はじめまして、中藤広美です。私は、15年間、保育園や幼稚園で保育者として働いてきました。現在では、福岡県立大学で学生教育に携わり、子どもの発達支援等についての研究を行っています。
 この夏は猛暑が続いていますが、皆さんお体の調子は大丈夫でしょうか?こうも暑いと、ただでさえ大変な子育て中で、暑さも加担してイライラすることが多かったのではないですか?
 幼い子どもは、自分の気持ちを言葉で表現することは難しいものです。気に入らないことがあると泣いて訴えることがよくあります。さらに、そのような泣いた状態の時に何か言葉をかけてもなかなか泣き止まない。それどころかさらに泣き、手が付けられない状態になって親子ともども疲れてしまうことが少なくなかったという方もおられるのではないでしょうか。

行動の意味や理由を見つけるために

 実は、子どもの困った行動には、言葉では表現できないけれど意味や理由があります。その意味や理由を見つけるためには、子どもの様子をよく観察しましょう。そして、分かったら具体的な手助けをしてあげます。また、例えば、食事中においては、イスの高さを子どもに合わせたり、座る場所を変えたりすることで離席を防ぐことができるようになります。このように、保護者が環境を整えることで、困った行動と正反対の望ましい行動、すなわち「ほめてあげられるような行動」がとれるようにします。子どもをほめることで、成功体験をさせることが大切です。すると、子どもは、次第に望ましい行動が身についていくようになり、親はガミガミ言わずにほめることをメインにした子育てに切り替えることが「少しずつ」できていくようになります。

育むという意味

 「育む」という言葉の意味を調べてみました。その意味は元来、親鳥がひなを大事に育てる意味であり、「大切に優しく育てる」という意味で使われるそうです。今回からのWEB講座の4回シリーズでは、この「育む」という言葉を心にとめながらお話を進めていきたいと考えています。また、これからのお話しのベースは、私(中藤広美)がスタッフとして参加している福岡県立大学のペアレントトレーニングに基づいた内容になります。

次回からは、「朝起きて泣きさけび、なかなか保育園に連れていくことができない保育園男児」の事例を通して、「行動の意味や理由をさぐり」、「子どもをほめるための手助けの仕方や環境の整え方」、「ほめ方のコツやポイント」について具体的に触れていき、皆さんの子育てのヒントになるように進めていきたいと考えています。