藤江 文雄 先生

「不登校についての一提言」~不登校児童生徒の支援活動から見えたもの~第4回 不登校児童生徒と学校、地域社会

平成23年4月11日

1 不登校の前兆
 このことについては、前回に述べさせていただきましたが、改めて要約しました。

(1) 以前からその兆候を感じることができる場合
 休みが多くなる。一見おとなしく控えめな行動、会話の相手が限られる。学習の遅れが目立つ。
 特に真面目、ひいきにされる、かわいい等で仲間はずし、裏切りにあう。また、運動が苦手、特に水泳・長距離走が苦手。アトピーや喘息をはじめ何かの病気。発達障害等。
 家庭内の出来事(育児放棄を含む精神的・身体的虐待、夫婦関係のトラブル、離婚、保護者や近親者の急死等)

(2) かなり短期間の内に現れる場合
 教師や友達からの裏切り。保護者や近親者の急死。転居等に伴う環境の急変。
 キャパシティを越えた期待感からくる挫折等。

2 教師の姿勢
(1)なんと言っても第一は教師の児童生徒の観察、気づきです。固定的な偏見でなく、日々変化する児童生徒へのまなざしの注ぎ方です。
(2)小学校では学級担任が主になりますが、それでも複数教師で児童生徒の理解を図ることが望まれます。そして大切なことは理解したら行動することです。
(3)中学校では学級だけでなく特に部活動の中や生徒会活動等に起因する場合もあるので、学級担任や部活動顧問教師等の連携も必要です。

3 学校の姿勢
(1)当然のことながら不登校児童生徒を生まないことです。不登校は家庭や本人にだけ問題があると、未だに考えている教師や学校態勢に出会うことがあります。学校や教師の枠に入ることができない児童生徒の学習権をどのように考えればいいのでしょうか。
不登校になってからの対応でなく、不登校を生まない対応が望まれます。しかし、時々休む児童はいるけど、時々でも学校に来るので不登校ではないと、とらえている向きもあります。

(2) 学級に入ることができない場合
 多くは保健室や特別支援教室等でプリント学習をしています。一日中教師がついて支援・指導することは困難です。特に引き籠もり傾向の児童生徒は、学校に行きたいけれど行けないのです。そして行けない自分を責めているのです。その子どもの心情を推しはかるのに、よく次のことを教師や保護者に話します。
 「あなたが何かの原因で学校(職場)に行けなくなったとき、その職場の一室で過ごし、課題を出され、同僚から頑張っているかと声をかけられ、時には噂されるとしたら、あなたは耐えられますか。」と。子どもたちは自分を責め、また、周囲の人が自分をどう見ているかに大部分の神経を使っています。不用意な対応や言葉かけは子どもたちに精神的な負担を生じさせます。荒っぽい言葉、上から目線の言葉、指示的な言葉、疑り深い言葉、先を急がせる言葉、「学校に来ないと高校へは行けないよ」等は如何なものでしょうか。別におだてたり、へりくだったりの必要はありませんが。児童生徒と接するときの言葉や態度が、一人の人格を持った人間であるという認識を持って接してほしいのです。

(3)家庭訪問等
 教師の家庭訪問も難しい一面を持っています。ただ行けばいいというものでもなさそうです。原因はどうであっても、学校に行けなくなった児童生徒や保護者の多くは、その原因は学校にあると考えています。従って、特に不登校当初、児童生徒は、学校の側に行くのも嫌、教科書や標準服を見るのも嫌、教師と会うのはもっと嫌と思っています。そこに教師が行くと、保護者は子どもに挨拶をするよう強要します。子どもは教師が自分を学校に呼び戻しに来たと感じます。保護者と学校の連携はとても重要なのですが、普段の有り様が何かの時に多様な現象を生み出します。中学校で不登校になった生徒に、小学校の時の担任が自発的に時折訪問して、生徒の心を癒し続けた事例は、小中連携の視点からもありがたいことでした。

(4) 学校行事等
 修学旅行や遠足、体育会等児童生徒が好みそうな行事への参加で、登校のきっかけを作ろうとする取り組みもよく見受けられます。しかし、オアシスの活動の中で学校に復帰できた生徒は過去1名です。体育会に参加して、その夕方、学校では禁止されている生徒だけの打ち上げに参加して、そのうれしさで翌日から学校へ戻りました。
 でも、逆の場合が多くあります。行事に参加しても翌日から、またオアシスへリバウンドしてきます。参加するよう誘われたときは、本人なりに友達と打ち解けあった楽しい場を想像しているのですが、実際に行ってみれば、予想と大きなギャップがあることを知らされます。楽しい行事だけに、すでにできあがったクラスの輪に入れない自分を見せつけられるのです。クラスの生徒から、「楽しい時だけ学校に来て」とか「私たちがこんなに気を遣っているのにわがままな」などと陰口されて、居場所をなくしてオアシスに戻ってきます。この場合、生徒は再び元の学校へ戻ることはできません。不登校の児童生徒を誘うには、急ごしらえの仲間づくりではうまくいきません。

4 PTAや地域社会
 ある時、ある学校のPTA研修委員さんから講演を、と問い合わせがありましたので、お役に立てばと返事していました。数日して、その断りの電話がありました。「学校から不登校の話は問題がある」と指摘されたそうです。私はなぜ、何の問題があるのか理解できませんでしたが、当時、それが世間一般の考え方か、学校には不登校児童はいないという学校や教師の体面なのかなと思いました。

 私たちオアシスの活動の場所「いいづかつどいの広場」には、育児中の保護者が幼児を連れてきて自由に遊ぶ活動があります。最初はオアシスの活動に対してけげんなまなざしを向ける方がほとんどです。幼児が生徒に近づくことにためらっていることが分かります。しかし、オアシスの生徒の多くは幼児が好きです。都合良く世話をして遊びます。幼児たちも「お姉ちゃん」「お兄ちゃん」となついてきます。やがて保護者が生徒たちのことを理解してくれるようになると、幼児、保護者、生徒との交流が盛んになります。旅立ち式の卒業生には手作りのコサージをつけていただきました。でも、保護者の理解が得られない場合は、幼児はわだかまりなく生徒に寄って来ますが、保護者と生徒との間のバリアは消えません。従って、幼児とオアシスの生徒との交わりはとても薄いものになります。
 自分の責任でない事柄に起因した不登校生が、周囲からさも罪悪、怠惰、我がまま、不審者のように見られ、時には「不登校では高校に入れないよ」と脅されるに至っては、加害者が安泰であるのに比して大きな不条理を感じます。

5 終わりに・・・・「認める」「ほめる」「待つ」
 オアシスにおける児童生徒への支援活動では、「認める」「ほめる」「待つ」を基本姿勢として掲げています。自信や誇りを失い、自己存在感や有用感が薄らいでいる生徒の、わずかながらでも良さや頑張りを認め、決して否定的な評価をしない。足りないところや不十分さを指摘するのではなく、その生徒なりにわずかでも伸びたところ、努力したところ認め、ほめる。でも媚びない。そして、閉ざされた心が開かれ、凍った心が溶かされ、その生徒らしさが芽生えるまで、急がさずに待つ。その生徒たちの成長こそが私たちの喜びです。「待つ」ことには根気がいります。でも待ちます。子ども自身の回復力、成長力を信じています。
 保護者はなかなか待てません。「這えば立て、立てば歩めの親心」、早く学校へと期待します。子どもさんが十分に自分を取り戻す以前に学校に戻っても成果は期待できません。リバウンドすることが多くあります。
 学校も待てません。「オアシスに通えるのなら学校に来なさい」という教師もいます。でも、簡単にそうはならないところに不登校生徒との関わりの難しさがあります。
 私たち、特に子どもたちはそれぞれ発達段階や特性に個人差があります。みんなが同じことを同じ時にできるとは限りません。自分の子ども、目の前の児童生徒をじっくり見つめて育んでいって欲しいと願っています。
 3月に10名の3年生がオアシスを旅立ちました。そして全員高等学校に進学しました。よく連携をとっていただいた中学校に感謝しています。また、数名の生徒が学校復帰を目指しています。今までの生徒のように、元気に旅立っていくことができると信じています。

6 自分についてのアンケートから
 以前、福岡県青少年アンビシャス運動推進本部が、「A、自分についてのアンケート。B、生活についてのアンケート」を、小学校が4・6年生に、中学校が2・3年生対象に実施しました。オアシスでも昨年10月に、中学2・3年生13名に実施しました。対象生徒数が少ない上に、オアシス在籍日数が長い生徒、短い生徒が混じり、資料性はありませんが掲載してみました。

問1 わたし(ぼく)は、すべての点で自分に満足している。
1,とてもそう思う(0) 2,少しそう思う(2) 3,あまりそう思わない(7)4,全くそうは思わない(4)

問2 わたし(ぼく)は、ときどき「自分はダメだなぁ」と思うことがある。
1,とてもそう思う(5) 2,少しそう思う(8) 3,あまりそう思わない(0) 4,全くそうは思わない(0)

問3 わたし(ぼく)は、いくつかの点で見所があると思っている。
1,とてもそう思う(0)2,少しそう思う(4) 3,あまりそう思わない(9) 4,全くそうは思わない(0)

問4 わたし(ぼく)は、友達ができると同じくらいに色々なことがでいる。
1,とてもそう思う(1) 2,少しそう思う(4) 3,あまりそう思わない(8)4,全くそうは思わない(0)

問5 わたし(ぼく)は、あまり得意なことがない。
1,とてもそう思う(4) 2,少しそう思う(6)3,あまりそう思わない(1) 4,全くそうは思わない(2)

問6 わたし(ぼく)は、ときどき「役に立っていないなぁ」と感じることがある。
1,とてもそう思う(2) 2,少しそう思う(7)3,あまりそう思わない(4) 4,全くそうは思わない(0)

問7 わたし(ぼく)は、少なくとも自分が他の人と同じくらい価値がある人だと思う。
1,とてもそう思う(1) 2,少しそう思う(6) 3,あまりそう思わない(3)4,全くそうは思わない(3)

問8 わたし(ぼく)は、もっと自分を尊重できたらいいなと思う。
1,とてもそう思う(4) 2,少しそう思う(4) 3,あまりそう思わない(3)4,全くそうは思わない(2)

問9 わたし(ぼく)は、何をやっても失敗するのではないかと思ってしまう。
1,とてもそう思う(4) 2,少しそう思う(4) 3,あまりそう思わない(5)4,全くそうは思わない(0)

問10 わたし(ぼく)は、自分のことを積極的に認めている。
1,とてもそう思う(0) 2,少しそう思う(5) 3,あまりそう思わない(4)4,全くそうは思わない(4)

 

「不登校についての一提言」~不登校児童生徒の支援活動から見えたもの~

平成23年3月9日

 「この子がなぜ不登校に?」と保護者の方は言われます。教師さえも「なぜあの生徒が?」と不審に思われる場合も少なくありません。前回は不登校になったと思われる原因について、おおまかに述べさせていただきました。今回は「不登校と家庭」という視点で述べさせていただきます。

1 挫折型の場合
 子どもさんが頑張りすぎてはいませんか。また、頑張りさせ過ぎてはいませんか。にんじんをぶら下げて馬を走らせるのとは違いますから、子どもさんの状況を丁寧に感じ取ってあげてください。このタイプの子どもさんの多くは素直で優しい子ですから、周囲の人の言うことによく耳を傾けます。また、周囲の不十分さは自分のせいではないかと考え、自分を責めます。責任感が強いので一生懸命取り組みます。
 でも、人は、個人差はありますが、それぞれに受容量(キャパシティー)があります。それを越えたときにぽっきりと折れてしまいます。この型は中学校2・3年生で突然起こる場合がほとんどです。

 事前に:子どもさんとの何気ない会話を普段から交わし、表情や会話の内容に留意する必要があります。疲れていそうな時は、「もう少しだから頑張ったら」ではなく「少し休んだら」とか、保護者からの注文(期待、願い)を少しダウンさせてあげてください。 当然の事ながら親をはじめ家族の方の共通理解に基づいたものでなければなりません。

 事後に:「以前はこうだった」「こんな子ではなかった」と悔やむのではなく、また、子どもさんの怠けとか我がまま等と考えないでください。子どもさん自身が自分のことを十分知っています。家族が十分に理解したうえで、子どもさんの今までの状態をフォーマットしてください。一度白紙に戻して、子どもさんの固まった心を解かしてください。自信を回復し、自己存在感、有用感を育ててください。そのためには私たちは根気よく「ほめる」「認める」「待つ」ことを大切にしています。

2 学校原因型の場合
(1)学校や学級が荒れていて、その中に自分が適応できない場合
(2)部活動のなかでのトラブルの場合
(3)教師との関係が切れた場合
(4)特定の授業に適応できない場合
前回その例の一部を掲載いたしました。今回はそれによる不登校の兆候と回復について述べさせていただきます。

(1)学校や学級が荒れていて、その中に自分が適応できない場合
 兆候:学校に行くのを渋り、腹痛や頭痛を理由に休みがちになります。それ以外のことは話しません。保護者も時々の休みですから不登校の兆しとは気が付きません。
 対策:普段から子どもさんとの関わり合いを大切にし、子どもさんの表情や体調の変化に気を配ることが何よりです。休みがちになったら、学校に素早く連絡をして、学級での子どもさんの状況を尋ねてください。

※この時点で不登校の入り口に立っています。特に友達関係、昼休みなどを一人過ごしている時が多くはないか、学級や学校の雰囲気はどうなのか尋ねてください。特に担任教師と子どもさんとの関わりを深めるようにしてください。
※でも、これは子どもさんが担任を嫌っていないことが前提です。子ども達は、学校でいやなことがあったら担任に期待しますが、それに応えてもらえない時は極端に担任を拒否し、教師に全ての原因があると考えるようになります。

(2)部活動のなかでのトラブルの場合
 兆候:今まで毎日参加していた部活動を休みがちになります。次に「勉強したいから部活動をやめたい」と漏らすようになります。それを聞いた親は「子どもが勉強に打ち込むのなら」と思い、退部を認めます。でも、多くの場合、部活動の中に自分の存在を感じないようになっているのであって、本気で勉強に向かっていくかというと、それは3日坊主に終わり、やがて学校に行けなくなります。
 対策:素早く部活動の指導教師と話すことが大切です。でも、先生が生徒の実情をよく把握していない場合は、親の方から色々問いかけてみましょう。部活動をやめて自由気ままな生活を送りたいと子どもさんが思っている場合もあります。

(3)教師との関係が切れた場合
 兆候:教師から裏切られた。無視され見捨てられた。差別されたと子どもさんが感じた時、突然学校に行けなくなります。兆候を示さず、突然の場合が多いようです。これは小学校3・4年生から見られます。
 対策:子どもさんの不登校の原因が教師にあるのではないかと、学校や教師本人にはとても話にくいことです。そのために、子どもさんに非があるのではないかとか、我慢しなさい等と言って子どもさんを納得させようとします。すると、子どもさんは保護者にまでも不信感を抱くようになります。保護者は勇気を持って本当はどうなのか確かめ、少なくとも早期に大人として、教師・保護者として子どもを中心にした適切な手立てを講じてください。

(4)特定の授業に適応できない場合
 兆候:特定の教科、あるいは教科全体の成績がふるわなかったり、授業を受けるのを拒否したりします。学校を休む曜日が一定になる場合もあります。
 対策:教科担当教師が好きならばその教科も好きになると言うことはよくある現象です。逆に教師が嫌いならば教科もきらいになるようです。これに対する特効薬を見いだすことができません。不得意な教科、嫌がる教科、また、なぜ全教科に学習の効果が見られないのか、それが全て子どもさんの我がままや怠けと決めつける前に、担任や教科担任に相談しましょう。場合によっては、学習障がいであることも考えられますので、早期に専門的な診断を受けることも大切です。とにかく、いずれにしても子どもさんを中心に据え、多方面から支援する手立てを講じましょう。

3 家庭原因型の場合
 家庭自身に問題がある場合は、学校や周りの大人の支援が必要になってきます。

(1)育児放棄傾向にある場合
 兆候:親の都合や身勝手で起床、食事、就寝など子どもの生活リズムが不規則になり、生徒の生活リズムが整わず、そのことが影響して不登校になったと思われる場合があります。
 対策:これらはまさに家庭の役割を損ねているのですから、学校が生徒の変容に気づいたら、関係者で親と話し込んで欲しいと思います。でも、これは家庭の中のことですから、なかなか取り組むのに困難さがあります。

(2)保護者に病理的な問題がある場合
 兆候:保護者に躁鬱(そううつ)傾向、情緒不安定な方がいる場合、家庭の中に緊張状態が漂います。その影響を受けてか、子どもさんも精神的な不安定を起こします。そのことで友だち関係が壊れ不登校に陥る場合があります。
 対策:このタイプも、家庭の中の、しかも病理的な事柄ですから、対策は難しく時間もかかります。保護者本人の自覚と家族の理解が必要です。

(3)母子未分離型
 兆候:母親は子どもを溺愛し、子どもも母親と離れることを不安がります。子どもさんはなにか不安や困難に出会えば母親と近い距離に居場所を求めるので、不登校になりやすくなります。
 対策:この傾向は小学校中学年から顕著になりますから、その様子がみられたら、母子関係のあり方について、保護者懇談の折りにでも学校と話し込むといいと思います。

(4)幼児期の虐待
 兆候:幼児期に虐待を受けているため、大人不信、男性不信または女性不信になっています。従って男性教師あるいは女性教師に馴染めません。また、大声の指示や号令、叱責に拒否反応をしめします。そのために消極的になり、不登校へと繫がります。
 対策:子どもの実態に合った女性(男性)教師に担当してもらうなどして、誰からどのような虐待を受けたのか、本人に気づかれないよう慎重に情報を得なければなりません。

(5)家庭不和
 兆候:親や大人に対して不信感を持ち、問題行動に走るか、情緒不安定・引きこもりに陥ります。夫婦関係、離婚や保護者の死亡などが子どもさんに精神的な不安定感を宿します。
 対策:教師をはじめ誰かが母親や父親の代行として、話の聞き役、精神的支え役、規範の指示役になることが望まれます。

4 いじめ被害型の場合
 兆候:登校を渋り、元気がなくなります。時として親に反抗的になり、また弟や妹をいじめるような態度をとるようになります。また、いじめを避けるために力のある友達に近づいたりします。
 対策:家の中で普段から子どもさんの行動や表情の変化に気づく関係・雰囲気を作っておきましょう。親がふと何か気になった時は、必ず子どもさんに変化が生じている時です。子どもさんは小学校上学年にもなると、自分がいじめられていることを親や教師に隠し、話すことを嫌がります。気になる様子が見られたら、学校や塾、所属している運動・文化クラブの指導者等に相談しましょう。

5 病気や発達障がいを要因とする場合
 兆候:発達障がい、起立性貧血、アトピー性皮膚炎、吃音など
 対策:起立性貧血、アトピー性皮膚炎、吃音は態度や行動に表れやすいので、周囲に理解があれば、集団の中で活動できます。しかし、発達障がいには種々な様態があり、子どもの行動が何によるものか、専門的に慎重に診察・検査を受けることが大切です。しかし、この検査を受けることに強い拒否感を持つ保護者の方が多いことがネックです。保護者自身が、病気や発達障がいについて正しい知識を得ることが何よりも必要です。

<まとめ>
それぞれのご家庭の様子について、次のような視点でふりかえっていただけたらと思います。
●普段から家庭の機能が発揮され、教育の場であると同時に憩いの場となっているでしょうか。
●家族の日常の生活リズムは如何でしょうか。
●子どもさんが不登校になっていること、その対応について家族の共通理解がなされ、支援態勢ができているでしょうか。
●子どもを信じ、家族の一員としての地位が保たれているでしょうか。
●学校や関係機関、団体等との連携がとれているでしょうか。
●人間だから病気をするし怪我もする。体が傷つくと同じように心も傷つくということ を理解されているでしょうか。
●不登校生は問題児ではない。大半が、気持ちが優しい生徒だと分かっていただいている でしょうか。

※次回は学校との関係について掲載の予定です。

 

「不登校についての一提言」~不登校児童生徒の支援活動から見えたもの~第2回-なぜ不登校に-

平成23年2月9日

 不登校と言えば、それは親の甘やかし、わがまま、いじめ、低学力、情緒不安定などと先入観を持って一元的に決めてかかろうとする風潮があるように思えます。 
 不登校の原因について、文部科学省や多くの研究者が発表した資料等にも掲載されていますが、今回は、10年間にわたるオアシス活動の中から感じ取られた事象を、例として報告させていただきます。

※オアシスでは反社会的行動をとる生徒は受け入れていませんので、そのタイプについては報告できません。また、事例は特定の生徒を取り上げたものではありません。

1 挫折型
 これは、その生徒のキャパシティーを超えたプレッシャーのために、多くのことを抱え込んでしまって、突如自信を喪失し、学校に行けなくなるというタイプです。
 学校の学業成績は優れ、部活動や生徒会活動でも活躍し、学級でも先生方や級友からも信頼されて、いわゆるよい子、優等生といわれていた生徒が、あるとき急に学校へ行けなくなるという場合です。
<例1>
 小学校時ではテスト等で良い点数をとり、体格もよく、利発ないわゆるよい子でした。居住地の中学校が荒れていたこともあって、ある私立中学校に進学しました。電車による通学時間がかかるので、学校の寮に入りました。ある時、校内テストで教師が期待する点数がとれないことで、指導を受けました。加えて親友と思っていたクラスメイトとの交流もうまくいかず、入学以来、一生懸命我慢し頑張ってきましたが、中学校生活が急に重荷としてのしかかり、自信を失い、人間不信を抱いたまま退学することになってしまいました。

<例2>
 厳格な父親と教育熱心の母親の期待を受けて、ある全寮制の進学校に進みました。2年生の半ばに、ある教科の点数が伸びず担当教師から指導を受けました。そのショックでついに学校に行けなくなりました。家に戻った生徒は地元の中学校に戻ることをひどく拒否し、家に引きこもりました。父親は、それは子どもの我が儘で、怠惰な行為だと責めたてました。ついには家庭内暴力までに至り、彼は人間不信を抱いたままゲームにのめり込んでいきました。

<例3>
 いわゆる優等生で、成績、生徒会活動への参加、学級の委員としてのお世話など、よく活動していました。ところが、ある時から級友の「いい子ぶって」というからかいに遭うようになりました。そこで彼女は自分をからかっているグループに入り、悪ぶった行動を取るようになりました。しかし、所詮そのような雰囲気の中で過ごせるわけはありません。結局そのグループから脱して、学校に行けなくなりました。親も教師も、よく分からないままにあの手この手の登校刺激を与え続けましたが、ついに彼女は部屋に籠城するまでになりました。

2 学校要因型
<例1:学校・学級の荒れ>
 授業中の私語、徘徊、悪口雑言、中には携帯電話やゲーム機など、いわゆる収拾がつかない学級や学校に耐えきれなくて、正義感が強く潔癖な子が学校不信に陥り、家に引きこもりました。

<例2:部活動>
 彼女は利発でよく気が利き、体も良く動き、友達思いの生徒でした。次期キャプテン候補として顧問教師から頼りにされていました。ところが、ある時から仲間の部員が「先生からかわいがられている」と彼女を疎外し非協力的になりました。悩んで顧問教師に相談しましたが、その教師の対応が火に油を注ぐ結果になり、彼女は学校に行けなくなりました。
そのほかに、レギュラー争い、楽器のパート争いなどの場合が多く見られます。

<例3:教師との関係>
 中学生の彼は、学級担任であり教科担任でもあり、その上部活動の顧問である教師に尊敬とあこがれの情を持っていました。ところがある時、教師の発言と行動に自分は嫌われていると感じ、教師不信に陥り、部活動を辞め、その教師の授業を受けなくなり、ついには学校に行かなくなりました。
 小学生の彼女は、軽い吃音がありました。ある日の国語の時間。「はきはきと声を出して読みなさい」と注意されました。その翌日から学校へ行けなくなりました。彼女はそのことをずっと心にしまい込み、笑顔さえ失いました。

<例4:授業不適応>
 体育の授業で、特に女子は水泳を、肥満な生徒は長距離走を嫌う傾向が見られます。自分が不得意なことに、教師は頑張れというエールを送っているのでしょうが、生徒には逆に辱め、叱責、からかいや冷やかしに受け取られる場合があります。
 また、大声や体罰におびえる生徒は、幼児期や低学年時に虐待を受けた経験を持っている場合があります。怒鳴り声、急き立てられる行動に恐怖感を覚え、学校に行けなくなる場合です。

3 家庭要因型
 親の仕事が大変な場合や、親が自分の楽しみを中心とした生活を送っている場合、親が心因性の病気を持っている場合などが考えられます。その結果、子どもに基本的な生活習慣が十分に定着できていません。

<例1:育児放棄>
 家事を放棄し子どものことにかまわない。家で食事を作らずに、コンビニやスーパーの出来合い中心。朝食を作らない場合も。室内の掃除ができていません。洗濯も十分にされていなく、替え着も不十分です。また、夜間外出が多く、カラオケ、飲酒、パチンコなどに熱中している場合もあります。

<例2:保護者の病気>
 家庭の中が落ち着かない。いつも緊張状態が漂い、家庭としての憩いの場が得られない場合。

<例3:母子未分離>
 母子分離ができていない。母親に依存し、母親と離れることに不安を感じる場合。

<例4:幼児虐待>
 幼児期に虐待を受けていて、その影響が心の中に残り、対人恐怖・大人不信に陥っている場合。

<例5:家庭不和>
 家庭内で夫婦間、舅と嫁間等の不和、離婚が絡む夫婦間のトラブルによる情緒不安定な場合。

4 いじめ被害型
 学級の友達から仲間はずしや無視、悪言の流布、からかい、暴力、恐喝などで教室に居づらい雰囲気に追い込まれている場合。
 このパターンは多くの事例があって、例示するには多くのスペースを要しますが、最近は直接的ないじめは減少傾向にあります。しかし、携帯によるトラブルが非常に多くなっています。ただ、まじめな生徒、リーダー的な生徒を攻撃して挫折させることは減らないようです。

5 学習不振・遅進型
 学校の授業について行けなく、他の生徒から疎外され学校が楽しくなく、むしろ苦痛の場になっている場合です。

<例1>
 小学校の担任によれば、彼女はおとなしい児童であったそうです。兄弟は勉強もできるし行動も活発でしたが、この児童は兄弟と違って、全ての面で劣っていました。母親は、この子の怠けだと思い、ひどく注意したり、色々な塾に通わせたりしました。いつも控えめでおどおどしている様子なので、検査を受けることを勧めました。その結果、母親の育児方針が全く違っていたと指導を受けました。その後、彼女に明るさ、伸びやかさが見られるようになりました。

6 病的要因型
<例1:躁鬱(そううつ)>
 あるとき訳なくふさぎ込んだり、またあるときはハイテンションになったりで、集団に適応できなくなる。他方、学級が生徒の症状を理解できず、周囲から疎外され教室に居場所をなくしてしまいます。

<例2:起立性貧血>
 朝、貧血のため早く起きることができない。そのために遅刻する。それを教師や生徒から「早く来なさい」「怠け者」などと言われ学級に入れなくなる。鼻炎や喘息の場合も、音が人に迷惑になる、また、午後から眠気が襲うなどで、授業中に注意をされたり白い目で見られたりする。

<例3:その他の病気>
 アトピー皮膚炎などの病気によって。

※以上、オアシス活動の中から、不登校になると思われる要因を掲げて見ました。でも、実際に不登校になるには、一つだけの要因ではなくて、いくつかの要因が潜んでいて、それが何かの出来事をきっかけにして表出するのだと考えられます。

次回は、あげられる要因に対してどのように対応したらよいのかを、提起したいと計画しています。

 

 

「不登校についての一提言」~不登校児童生徒の支援活動から見えたもの~第1回-不登校児童生徒の実態-

平成23年1月21日

1 不登校児童生徒数はどれほど?

(1)平成22年度文部科学省の学校基本調査(速報)によると
平成21年度の長期欠席者(年間30日以上の欠席者)のうち、不登校を理由とする児童生徒数(小学校・中学校・中等教育学校(前期課程)は12万2千人(前年度より4千人減少)で、前年度より3.4%低下したと報告されています。
「不登校」を理由とする児童生徒数の内訳は、小学校では2万2千人(前年度間より3百人減少、対前年度比1.4%減)。中学校10万人(前年度間より4千人減少、対前年度比3.9%減)。中等教育学校(前期課程)182人(前年度間より14人増加、対前年度比8.3%増)。と報告されています。

(2)福岡県の場合(福岡県教育委員会調べ)
平成21年度の不登校児童生徒数・・4,786人(前年度比124人減)
小学校754人(前年度706人、前年度より48人増)
中学校4,032人(前年度4,204人、前年度より172人減)となっています。

2 なぜ不登校に・・・・決定的な原因はつかめない

 オアシスの在籍する生徒達に「どうして学校に行けなくなったの」と尋ねることは極力控えています。特にオアシスにやってきた当初に、そのような質問に答えを求めることは、生徒にとってとても苦しいことだと思うからです。それでも生徒の何気ない会話や態度、保護者との対話などでおぼろげながら伺うことができます。そこから得られる結論は、いくつかの要因が絡み合っているということです。

 オアシスに長く在籍している生徒の観察・支援を通して、不登校の要因と思われるものを整理してみました。次回はその要因と思われる型を掲載させていただきます。