長 しのぶ 先生

~心と体の健康管理~第6回 新学期スタート

平成19年4月3日

《健康診断》
 新学期が始まると,恒例の健康診断が実施されます。生徒たちは,学校の行事なので仕方なく受けていますが,自動車でも,車検等の定期的な点検を受け,故障をする前に部品を交換して整備をします。人間も定期的に心と体のメンテナンスが必要です。

《体のメンテナンス》
 健康診断の結果,治療や精密検査が必要な生徒に『治療のお知らせ』を渡します。しかし,治療や精密検査を全員が受けているわけではありません。以前,むし歯のある生徒とむし歯のない生徒に分けて,定期考査の結果を比較したことがあります。予想に反して、あまり違いは見られませんでした。しかし,むし歯の治療を済ませた生徒とむし歯の治療をしない生徒では,治療を済ませた生徒の方が断然成績がよかったのです。すぐに治療をする家庭は,子どもの健康への意識が高く,健康管理されていることがわかります。そのことは,生活のリズムや食事などにも十分に配慮されて,学習に取り組みやすい環境があるとも言えます。
 健康診断結果をもとに,成長や健康について,生活習慣の見直しなど,親子で話題にすることをお勧めします。

《心のメンテナンス》
 新学期は,クラスや担任がかわり,心機一転張り切るものです。特に4月は,クラスの,部活の,そして,自分自身の目標を立て,どの生徒も頑張ます。目標が多かったり高かったりすると息切れがします。また,新しい人間関係に色々と気をつかうことも多く。5月の連休の頃が疲れのピークとなります。心に溜まった疲れをうまく処理できないとだんだん気持ちが沈んできます。そうすると,連休明けの体育会や文化祭などの行事や定期考査などにつまずき,自信をなくし,自暴自棄になったり,やる気がなくなったりします。
 家庭で,次のような様子が見られたら,心の疲れを癒す必要があります。?八つ当たりをする。?はしゃいだり,沈んだり感情の起伏が激しい。?食欲がない。?学校の話をしなくなる。?部屋にこもりがちになる。?用事もないのに帰りが遅くなる。?服装がだらしなくなる,派手になる。
自分からは,なかなか弱音を吐けないものです。「十分頑張ったから,少し肩の力を抜いてごらん。」「そんなに無理しなくていいよ。」と言って欲しいのです。心の安全地帯は,やっぱり家庭です。家庭こそが,疲れた心と体を丸ごと受けとめることができます。


 最後に,ビタミン“あい”を送ります。“あい”は,“愛”ですが,“合い”でもあります。親子の間でも,夫婦の間でも,話し合い,助け合い,支え合い,譲り合いが必要です。たくさんの“合い”を育んでください。6ヶ月間,お付合いくださりありがとうございました

~心と体の健康管理~第5回 春なのに・・・

平成19年3月5日

《憂いの春》
 花もほころび、うららかな周りの様子に比べると、三月は、思春期の子どもの心の内は結構複雑です。3年生は卒業を前に最後の難関と格闘していますし、1,2年生も、進級に際して、自分の進路について、問い直しているときではないでしょうか。
この時期、不安や迷いを抱えて保健室を訪れる生徒が増えます。目標が定まらず、とても不安な様子です。

《決めるということ》
 「将来の夢」「未来への希望」と文字にするととても明るいイメージなのですが、選択を迫られている本人の胸の内はどうなのでしょう?まだ、人生の4分の1しか生きてきていないのに、残りの4分の3の人生をどう生きるかの決断を迫られているのです。
溢れる情報の中から自分に必要なものを選べず振り回されている子。成功体験不足から自分に自信がもてない子。自分にどんなことができて、何が向いているのかわからずにいる子。みんな迷っているのです。
 三者面談の時、「自分の将来をどう考えていますか?」
と質問されても答えられない子がふえました。そのかわり、保護者が詳しく説明されますので、親の希望はよく把握できます。

《自分のために決める》
 「親が言うから・・・」「先生の話では・・・」と今まで決断を他に委ねてきたのに、将来のことに関して「自分で決めなさい」と、突然言われても困るってしまうのです。ですから、『自分のために決めること』の練習を日頃から積み重ねていくことが大切になります。
小さな決断には、小さなご褒美がついています。小さな決断の結果、うまくいけば、小さな達成感が味わえ、うまくいかなければ、小さな挫折感を感じるでしょう。小さな達成感も貯めていくことで、自信や意欲につながります。小さな挫折感ならば、なんとか自分で乗り越え、また挑戦することができます。
 親は、そんな小さな決断の結果を温かく見守り続けることで、大きな決断の日を無事に迎えられるでしょう。親が不安になりおろおろとすると、子どもは自分の決断に自信がもてず、できることもできなくなってしまいます。子どもも頑張っているのです。努力しているのです。親としても、不安に揺れず、どっしりと落ち着いて見守りたいものです。
 先日、模試の結果が届きました。判定は『C』。我が子といえば、「入試まで、あと1年もあるから、大丈夫!」と落ち込む気配はなし。「かなり頑張らないと合格しませんよ。」と言われたのを思い出した母は、「『頑張れば、合格する』と先生もおっしゃっていたから」と、親子で妙に納得してしまいました。こんな楽天親子をきっと担任の先生は心配されていることと思います。

 

~心と体の健康管理~第4回 思春期の体づくり

平成19年2月2日

《保健室の人気者No.2》
 身長計と並んで保健室の人気者は,体重計です。特に女子は,「見ちゃダメ!」と目盛りの所を手で隠しては大騒ぎです。「体重計は身長計とセット。そして、私に報告すること」と養護教諭の私が言うと「うそ~!」「なんで!」といいながらも、こっそりと教えてくれて、結構素直で、かわいいものです。
 男女ともに気になるのは,身長と体重のバランスです。

《それってほんとに太りすぎ?》
 身長と体重を聞いたら早速、電卓でピピッと計算です。「128。先生より痩せてるわよ。ダイエットの必要なし!」と保健指導の開始です。計算したのはローレル指数《ローレル指数=体重(kg)÷身長3(cm)×107》。160以上が太りすぎ100以下が痩せすぎの目安です。130が理想的で、115~145が標準の範囲です。保健室で体重を測る生徒のほとんどがこの範囲です。160を超える生徒は、人前では測定することはありません。(ほんとはこの生徒たちこそ、指導が必要なのですが・・・)
 標準の範囲内にあっても、「痩せたい想い」は、なかなか消せません。あれこれ説明しても納得しない場合は、秘密兵器の「体脂肪計付き体重計」が登場です。保健室の秘密兵器は、児童生徒用の特別なもの(家庭用の体脂肪計は、判定範囲が成人になってます)で、見た目もとても精密機械ふうです。これで測定して、やっと納得するようです。

《生活習慣病予備軍》
 しかし、見た目もローレル指数も標準でも、体脂肪率が高い生徒がたまにいます。話を聞くと食事のバランスや運動量など生活習慣に問題があることが多いようです。特に朝食抜きと間食の多さ、生活リズムの不規則さが課題です。このままだと将来が心配です。生活習慣病は、毎日の努力の積み重ねで改善できます。まずは、朝食をちゃんと食べることから始めます。

《ダイエットが必要?》
 標準の範囲内にあっても、もっと痩せたいと願う女子生徒。実際に痩せすぎの域にいてももっと軽くなりたいといいます。思春期のダイエットには、危険がいっぱいです。この時期に体が作られるので、不十分だと一生の健康を左右します。特に女性は、子どもを産むという大切な役割を担ってますので、思春期の体づくりが、出産後の本人と赤ちゃんの健康に大きく影響します。この時期のダイエットは、無月経を引き起こし、骨の成長を妨げます。そして、将来の妊娠・出産に影響し、骨粗鬆症の原因になるのです。生徒には、ダイエットではなくシェイプアップを勧めます。今の体重を維持しながら、メリハリのある調和の取れた体型が目標です。それには、バランスの取れた食事と適度な運動が必要です。
 と言う私自身も、お腹まわりの余分なお肉が気になる年頃。生徒と一緒に「早寝、早起き、朝ご飯」を合い言葉に今日からシェイプアップ!間食(甘食)控えめ、腹筋・柔軟体操を頑張ります。

 

 

~心と体の健康管理~第3回 どうやったら伸びるの?

平成19年1月5日

《保健室の人気者No.1》
 なんと言っても保健室の人気者は,身長計です。休み時間の度に,養護教諭の私には目もくれず身長計にまっしぐら。特に男子は,集団でやって来ては大騒ぎです。「入室するときは,『失礼しま~す。』ぐらい言ってほしいなぁ。」と,怖い顔して嫌みを言うものの「1?伸びた!」「なんで!昨日より低い。」と互いに目盛りを見合っては,一喜一憂する姿は微笑ましいものです。
男女ともに気になるのは,身長。男子は友達より1?でも高く,女子は低すぎず高すぎずが希望のようです。

《どうやったら伸びるの?》
 ひとしきり測った後は,「牛乳1ℓ飲んだ。」「イリコがいいらしいよ。」「鉄棒にぶら下がるのが効くって。」と食事や運動療法の話で盛り上がります。時には質問攻めにあうことも。カルシウム・蛋白質も必要ですし,運動も必要です。「寝る子は育つ」も正しい事実です。大切なのは,食事・運動・睡眠をバランス良く取り,愛情に育まれて成長ホルモンの分泌を促すことです。過度のストレスや情緒の不安定さは,成長ホルモンの分泌を抑制します。身長にもビタミンI(愛)が不可欠なのです。
 我が子の悩みもどうも同じらしく,「朝,足を引張ってもらうと伸びるらしい。」と聞いてきた翌朝から,足を引張ってます。効き目は?ですが,朝のスキンシップは,ビタミンI(愛)と思って頑張ってます。

《ほんとに伸びますか?》
 時々,深刻な思いの相談を受けます。確かに,身長が思う様に伸びない原因をもつ子どももいます。治療を受けることで改善される場合もあります。低身長の原因を調べる検査は,保険診療で行われ,精密検査となると高額になります。大切なのは,受診時に今までの成長の記録を準備することです。この記録は,母子手帳と学校の健康診断票に記載されてます。養護教諭に相談されると良いでしょう。私も,幾度か相談を受け,実際に治療を開始した子どももいます。

 七五三の時,五歳の弟より背が低かったA君は,いつも一番前で,身長のことを大変気にしていました。中学卒業間近に保健室に相談に来たので,校医さんに相談し,紹介状と今までの記録を持たせました。卒業後,病院を受診し,「異常なし」と言われました。一年後,保健室に遊びに来たA君は,10?以上伸び,見違えるほど大人っぽくなっていました。「弟に追越された時から,もうだめだとずっと思ってたけど,『これから伸びます。大丈夫ですよ。』と言われて,今まで悩んでいたのがぶっ飛びました。そしたら,ニョキニョキ伸びちゃって・・・」と照れくさそうにA君は笑ってました。心と頭の上に乗っていた大きな重石が取れたんですね。

 次回は,保健室の人気者No.2のお話です。

 

~心と体の健康管理~第2回 何が不安なの?

平成18年12月1日

 予測できないこと,自分の力ではどうしようもないと感じることに不安を感じます。
 日頃、「○○学校に行きたい」「将来,こんな職業に就きたい。こんな人になりたい。」と目標をもって努力を重ねていても,ふと,今の自分で大丈夫?と思ったとたんに自信がなくなり,不安で何も手につかなくなったりします。また,ちょっとした友達の態度や言葉に,「はずされたのでは…。意地悪されたのでは…。」と思うと,不安で学校へ行くことが辛くなったりします。この時期,どの子もそんな不安を抱えています。

《不安な心と向き合うことの大切さ》
 不安は,辛口の心の栄養素です。中辛から激辛までその辛さは,様々で,その感じ様もそれぞれ違うようです。
 不安に正面から向き合い,乗り越えていくことは,心を大きく成長させ,自信へとつなげます。でも,とっても辛いときは,しばし目を背けて,エネルギーを貯めるもよし,遠回りして避けて通るもよし。それはそれで,子どもなりに別の力を蓄えることになるからです。
 例えば,何となく陰口を言われているようで不安なとき,「なんか気になるんでけど,やめてくれない。」と言う(人間関係をくずさずに自分の気持ちを伝える力)か,無視してほとぼりが冷めるまでほおっておく(不安に惑わされない力)か,その友達とは付き合わず,新しく友達をつくる努力をする(新しい人間関係を構築する力)かということです。どの力も,大切な力です。

《見守ってますか?》
 不安なとき,子どもは,表情が暗くなったり食欲がなくなったり,逆に,イライラしたり八つ当たりをしたりします。小学校までならば,訊けば,答えてくれたもののも,中高生は,親には話さなくなる時期です。では,親としては,どうしたらいいのでしょうか?I(アイ)メッセージを贈ることです。「私(I)はあなたのことを○○と思っているのよ」のように「私(I)は」から始まる気持ちをいつも子どもに伝えておくことです。I(アイ)メッセージは,愛メッセージ。親に見守られていること感じられれば,安心して不安な気持ちに向き合えるのです。安心して不安になれるというのはおかしなものですが,不安に耐えられなくなったら,逃げ込める場所をもっているということです。中高生くらいになると,大抵のことは自分で解決し,悩んだら友達に相談します。親に頼るのは,最後の切り札です。近頃,親を煙たがる我が子に,その切り札をもっていることを感じさせておくことは,親の務めかなと思うこのごろです。 

 

~心と体の健康管理~第1回 思春期の“揺れる心”

平成18年11月14日

 はじめまして。今回から六回,この講座を担当します。現在は,教育センターで教育相談を担当してます。でも,本当は,小・中・高の学校で子どもたちの心と体の健康を見守ってきた養護教諭(保健室のお姉様?おあばちゃん?)でもあり,高校生の息子をもつ母親でもあります。両方の立場から,思春期の“揺れる心”について,一緒に考えていきたいなぁと思っています。


《子ども,それとも大人?》

 さて,思春期の子ども(中高生)は,公共の交通機関では,料金は大人扱い。でも,中学生は,小児科を受診し,薬の処方も子ども扱い。高校生といえば,バイクの免許も取れるし,女の子は,結婚もできる一端の大人かと思えば,煙草もお酒もパチンコもだめ,選挙権もないという子ども扱い。子どもとも大人とも言えない何とも中途半端な存在です。親として,どう接してよいのか迷うところですが,子ども自身も自分の身の置き所の無さに不安になり,心が揺れているのです。


《揺れる心》

 子どもと大人,依存と自立の間を揺れ動いているこの時期,不安になる心の隙間に,色々な誘惑が忍び寄って来るようです。不安な気持ちを静めるために,親や教師など大人に反抗したり,お酒や煙草,万引きや深夜徘徊などの問題行動で紛らわしたりします。また,不安に押しつぶされ挫折感を味わい,心を閉ざし引きこもったり自らを傷つけたりもします。
一足飛びに大人にはなれませんが,子どもはいずれ,親を超えていくもの。子どもの自立を願って,子ども扱いと大人扱いとを上手に使い分けて,意図的に接し,成長を見守っていきたいものですね。こう考えると,思春期もやっぱり手のかかる子ども。時には,本音でぶつかって,子どもと向き合う時間が必要なのだと思う近頃です。次回は,不安な心に向き合ってみたいと思います。