山際 千津枝 先生

~やわらかに食育て~ 第6回「本当にたいせつなこと」

平成21年4月8日

 あっと言う間に最終回です。
 子どもたちを見かける度に幸せに生きてほしいと祈るような気持ちになります。今の世の中生きにくいのは大人たちばかりではないと思うからです。
昔、男性料理教室の70代の方に聞いた話しですが、彼は中学校を卒業して集団就職で暮らしていた大阪の寮でなぜか賄いの人たちにとても可愛がられていたそうです。その時は不思議にも思わなかったそうですが、後で思い返して理由を考えると。食事の後に食器を重ねてカウンターまで持って行き「ごちそうさま」と言っていたのは自分だけだったと思い当たったと言うのです。
「貧しい生活だったけれど両親の躾が自分を幸せにしてくれました」
と彼は結びました。

 もうひとつ、知人から最近聞いたことです。東京の大学に行っている娘さんがちゃんと食事をしているだろうかと気になっていたら自宅通学の友人の家で度々ご馳走になっているらしいのです。
 理由をきくと一度大勢でご馳走に成った時に「美味しい。出汁の香りが嬉しい」とつぶやいたのに友人のお母さんが「ちゃんとした出汁の味が解るなんて・・」と感心されて、それから時にふれ「ご飯食べに来なさいよー」と声がかかるのですって。
「誰も知り合いのいない都会に一人出したのが気がかりだったけれどおかげで安心。有り難いことです」と知人は嬉しそうに話していました。

 出来すぎた話しのようですがこう言う例を沢山知っています。
 食事は健康のためにも大切ですがそれ以上の何かがあると思います。
 可愛げのある人間として育つには食の環境は大切です。
 何を食べるかよりもどう食べるか。
 食は幸せな生き方の指針でもあります。
 お読みいただいて有り難うございます。

~やわらかに食育て~ 第5回「大切なこといろいろ」

平成21年3月10日

 さてこのコーナーも残り少なくなってきました。今回は子どもの食生活の中で大切だと思っていることを箇条書きにしてみましょう。

 ○ 朝ご飯は大切です・・身体を温めてしっかりと目を覚まさせる目的も有ります。温かな具沢山のみそ汁は最適です。

 ○ 食生活にリズムを・・手のかかる料理よりもほぼ決まった時間に食べさせる方が大切です。子どもの心が落ち着きますよ。手抜きもOK、たまになら市販品を上手につかいましょう。

 ○ 配膳をきちんとする・・大皿料理を取り分けるのも悪くはないですが、配膳をするとバランスが目で確認出来ます・・左側にご飯、右側にみそ汁などの汁物、汁の上に肉や魚を使った主菜。その横に野菜で作った副菜を置きましょう。主菜副菜をきちんと考えると栄養のバランスが取れます。(おかずの右左は反対側に指導しているところも有ります。)

 ○ 「いただきます」を忘れずに。もちろんお箸の持ち方も家庭でちゃんと躾ましょうね。

 ○ 出汁(だし)の味を教えましょう・・子どもが本能的に好む味は甘みと脂のうまみだけですよ。出汁の香りや旨味は学んで覚えます。

 ○ 冷たい飲み物はほどほどに・・冬に冷蔵庫で冷やした水が必要ですか。

 ○ カロリーだけの食べ物は程々に・・スナック菓子ではビタミンミネラルがとれません。

 ○ お父さんもなにか一品得意料理を持ちましょう・・父親の家事参加は幸せな生活の一歩です。
 
 ○ 家族団らんを広げよう・・友人や仲間たちと一緒に食事をとることはマナーや人付き合いを学びます。閉鎖的な家庭にならないように。

 箇条書きなので疑問を感じる箇所も有るかもしれませんが、大切な事を書いたつもりです。一項目に一時間かけてお話したいくらいです、一緒に考えて下さいね。

~やわらかに食育て~ 第4回「風邪をひかないように」

平成21年2月2日

 春が待ちどうしい季節ですね。風邪引きさんが多いのにも驚きます。先日TVのコメンテーター席に座ったらカメラマンやデレクターの若い人たちが全員マスクをかけていたのにはぎょっとしました。

 今回は急遽、子どもたちの風邪の予防についてお話ししましょう。
 私たちが食事をとるのはお腹を満しそれにより栄養素を摂取して生命現象を営むためでした。ところが栄養学が進歩するにつれ食べ物、特に植物性食品には栄養素以外の特殊な成分が含まれているのが解ってきたのです。特殊成分には私たちの健康を促進し病気の回復を助ける働きがあります。

 ・お腹を一杯にする。(美味しいと感じ心も満たす)
 ・栄養を取る。
 ・病気を予防し回復を早める。

 つまり私たちは3つの目的で食事をしているのです。

 だから・・・
  風邪の予防はまず食べる事からです。
朝ご飯は必ず食べさせてください・・体温を上げる為にも朝食は重要な役割が有ります。朝の温かいみそ汁や牛乳は体温を上げるためにも必要なのです。

 ニンジンやホウレン草等の色の濃い野菜のカロチンは皮膚粘膜を保護して風邪の予防になります。
 白菜やキャベツなどのアブラナ科のお野菜も免疫力を高めてくれますよ。
 キャベツのスープや白菜の牛乳煮は子どもたちも好きなメニューです。
 また冷蔵庫で冷たくしたジュースや水に気をつけて下さい。冷たい飲み物は大人でもゾクッとしますよね。
 温かなお茶(湯でも)を飲む習慣をつけましょう。お休みの日だけでもミルクティ(ほうじ茶)やクッキー(焼き芋)などでお茶の時間を持ってはいかがですか。ダラダラとスナックを食べるよりずっと楽しいはずです。

 

~やわらかに食育て~ 第3回「今晩なにをつくろうかなー」

 平成21年1月8日

 あけましておめでとうございます。どのようにお正月をお過ごしになりましたか。1月を「睦月(むつき)」ともよびますが、睦には「むつむ」、「仲良く親しみ合う」という意味があります。

 お正月で一番大切なのは家族が一緒に過ごすことのようです。
 我が家は暮れにおせちをつくり家族皆、静かにおこもりして新年を過ごすという正統な?お正月でした。(つまり初詣以外は何処にも行かずゴロゴロしていたのです)

 おせちに飽きた時に作ったのはすき焼き、カニすき、おでんです。「贅沢!」ですか。確かに。でも我が家はカニの入った豪華な?鍋なんて正月にしか食べません。すき焼きも年に数回。だからすごく美味しかった!

 食べようと思えばなんでも食べられる時代ですが、だからこそ正月にしか食べないものを残しておくのです。運動会にしか作らないもの、お誕生日にだけ作るものを決めて普段は我慢するのをおすすめします。薄らぎつつある行事がもっと楽しみになります。

 行事は子どもにけじめを教える絶好のチャンスです。文章だけでなく生活にも「 、と 。」が必要です。
 子どもの頃の思い出は大切な財産です。作って上げられる親でいたいですね。
 再び春の兆しを感じ作物の豊かな稔りが期待されるこの季節を祝うことは宗教を超えて人間にとって重要な意味があるのだと思います。どんなに忙しくてもお煮染めだけでも手作りして新年を迎えられたらと毎年思います。
 何を食べるかよりもどう食べるかがもっと大切なのかもしれません。
 栄養学の先進国である北欧の食事指針の最初にあるのは「食べ物に敬意と感謝の気持ちをもって」です。
 お正月にこそ伝えられる食への気持ちがありそうです。

~やわらかに食育て~ 第2回「さて、どんな風にたべましょう」

平成20年12月1日

 「バランスよく食べましょう」と良く言われますが、あまりに漠然としていて解りにくいですね。また1日に野菜を何グラム肉を何グラムと言われてもどう配分すれば良いのか迷います。

 配膳を考えるとある程度のバランスは容易く整います。配膳は昔の人が考えてくれた食べ方のシステムです。まず、ご飯を左側に右側に汁物。汁物の上に主菜、ご飯の上に副菜を置きます。余裕があればサラダや酢の物や浅漬けを添えましょう。昔からの一汁三菜の考え方です。

 もちろんお汁を作らない日や一汁二菜の日があってもOK。大切なのはちゃんと主菜と副菜を分けて考えること。主菜はタンパク質源の肉や魚や卵で作ります。魚の煮付けでもトンカツやオムレツ、チキンソテー、何でも良いのです。横にキャベツやレタス、フライドポテトなどの野菜も添えましょう。
 副菜はカボチャの煮付けやホウレン草のお浸し、切り干しだいこんやひじきの煮付けなどお野菜や海草で作ります。
 汁物にも野菜が使われていれば完ぺき。これで計算しなくても大体のバランスは整います。

 主菜と副菜の考えがなくなるとどうなるでしょう。ある時、幼稚園の子どものお弁当を見て驚きました。鶏の唐揚げに卵焼き、ウインナーにエビフライだったのです。子どもの好きな物を全て入れたのでしょうが、これでは主菜の蛋白源ばかりで、ビタミンやミネラルは不足してしまいます。今夜の主菜は?副菜は?と考えていくと献立も立てやすいのです。

 三食これでは大変なので、朝は主食とタンパク質の卵や納豆。野菜をタップリみそ汁に入れるかその時間がなければトマトを食べる等すれば良いのです。

炭水化物、タンパク質、野菜です。

 とにかく考え方の基本さえあればその家に適したスタイルが出来上がっていきます。今日出来なければ次の日で補うくらいに気軽に取り組みましょう。
 それと食事の前に必ず「いただきます」を忘れないようにしましょう。自分の言葉を耳で聞いてその音が胃腸を刺激してくれるらしいですよ。それよりももっと大切なのは食べ物に感謝する気持ちなのですが。細かい食べ方はまた次の機会に。

 

~やわらかに食育て~ 第1回「食育って何でしょう」

平成20年11月6日

 本当に食育ってなんでしょうね。最近使われ始めた言葉のようですが、明治31年石塚左玄が『通俗食物養生法』で、明治36年には村井弦斎が『食道楽』の中に「小児には徳育よりも、智育よりも、体育よりも、食育がさき。体育徳育の根元も食育にある」と書いています。古くって新しいテーマなのですね。

 教育は知育、徳育、体育に区分されると言われていますが、では「食育」はその中のどれ?
 カロリーやビタミン、ミネラル等の栄養の知識は知育。理屈ばかりで全く料理が作れなければ困るので、身体で習得する体育のようにも考えられる。食べ物を独り占めせず分ける優しさや環境のことも考えるのは徳育。

 やはり「食育」は一筋縄ではいきませんね。またもう一つの教育は独り立ちして生きていける力を養うものでもあります。一人で簡単な料理くらい作れる。散らかったら片付ける。汚れれば洗う。生活力つまり人間力も子どもたちには持ってほしいですね。
さてこう考えていくと私たち大人はどうなのでしょう。胸をはって「私は大丈夫自信があります」と言える大人はどれくらいいらっしゃるでしょうか。
 そう、「食育」はまず大人たちのために必要そうです。

 まず、料理は手間と愛情をかけなければ。家族揃った団らんが何より大切。お母さんのおにぎりで子どもは健全に育つ。といった常識的な考え方を忘れたいと思います。

 子育てはこれぞという決まり手はないのです。こういうことに重きを置きすぎて子育て中の親御さんを追いつめることにならないようにもしたいのです。幸せな家庭を築いていらっしゃる方でも。
 上記の全てに恵まれなかったなーと思って読まれた方もいらっしゃるでしょ。全てに恵まれていたにも関わらず社会問題を犯す人も少なくはありません。考えることは多そうです。一緒に悩んで下さいね。
 私はまず「食べるって楽しいねー」と思える大人でいたいと思っています。
 ではまた次回に。