桑野 嘉津子 先生

第6回 学力向上は基本的生活習慣から

平成18年10月1日

 今年度から小学校では「早寝早起き朝ご飯」の取り組みが進められています。昔から言われてきたことが今改めて強調されるようになったのはなぜでしょう。

 子どもたちが心身ともに健やかに成長していくためには、「よく体を動かし、よく食べ、よく眠る」ということが大切だということは、社会がどんなに発展し便利な世の中になろうとも、原始的な生活をしていた大昔と全く変わることがない事実です。

 ところが、最近の様々な調査では外で遊ぶ子が非常に少なく、多くの子ども達は室内でテレビやビデオ、DVDを見たりゲームをしたりして過ごしていることが報告されています。そして子ども達の睡眠時間は短くなり、夜更かしの子が増え、「イライラする」「何もしたくない」「夜、よく眠れない」など心身の健康が心配な子ども達が増えていることも明らかになっています。文部科学省の「義務教育に関する意識調査」(平成17年度)によれば,朝食を食べない日がある小学生は約14パーセント,中学生は21パーセントに及び、その数は年々増加していることも分かりました。そして、朝食の摂取と学力テストとの得点の関係を調べたところ、朝食を取る頻度の高い子どもたちほど、高い点数を取る傾向にあることが分かりました。

 このように「よく体を動かし,よく食べ,よく眠る」という成長期の子どもにとって当たり前で必要不可欠な子どもの基本的生活習慣が、現代社会の中で当たり前ではなくなってしまっています。それとともに子どもの心や体は健康とは言い難い状況になり、さらには学習意欲の低下の要因の一つとなっていることも指摘されているのです。

 現在、学校では「早寝早起き朝ご飯」の取り組みとともに「学力向上」への取り組みにも力が注がれています。しかし、外で遊び回ることなく、夜遅くまで起きて目の前の学習課題を達成させることが「学力向上」ではありません。子どもの育ちを長期的視点で総合的に捉え、子どもの健やかな育ちを保障していくことが大切です。

 24時間休みなく動き続ける現代社会においても、「昼間元気よく遊んで体を動かし、お腹をすかせてしっかりと食べ、暗くなったらぐっすりと眠る」という生活のリズムを子どもに取り戻すことが、今、大人社会に切実に求められていることではないでしょうか。

第5回 子どもの学ぶ意欲を育てよう

平成18年9月3日

 子どもは、本来活動的で、新しい事柄に絶えず興味を持ち、色々なことを知りたがる好奇心旺盛な存在です。ところが現在、様々な調査の結果から子ども達の学習意欲が低下していることが明らかになり大きな問題になっています。

 意欲を持って学習に取り組み学力をつけて欲しいというのは親としての大きな願いの一つでしょう。そのために、家庭で叱咤激励して勉強をさせたり、塾に行かせたりすることも一つの方法かもしれません。しかし、忘れてならないのは、子どもの本来もっているはずの知的好奇心を上手に刺激することで学ぶ楽しさを身につけるということです。これは家庭でできる大切な役割ではないかと思います。

 具体的には、家庭でのコミュニケーションの中に、子どもが興味を持つような少し知的な内容を盛り込むことです。例えば今世の中で何が起きているのか、今日のニュースの中から話題を見つけながら意見や感想を述べ合ったりするのもいいでしょう。あるいは、ゲーム感覚で国の首都名を聞いてみたり、四字熟語を尋ねてみたりするのもいいでしょう。その中で、疑問に思ったことや分からないことを一緒に調べてみるというのも子どもにとっては楽しいことです。あまり難しく考えず、なんだか楽しいなと思えることを家族で一緒にすることです。

 国立教育政策研究所が行った「学習意欲に関する調査研究」によると、家族が仲良く楽しく過ごしているときは小学生で9割近く、高校生でも5割以上が「とてもやる気になる」「やる気になる」と回答し、逆に家族の仲が悪かったりしていやなときは7割以上が「とてもやる気がなくなる」「やる気がなくなる」と回答しており、家族が仲良くすることがやる気につながることが明らかになっています。

 家族の楽しいコミュニケーションの中で子どもの知的好奇心を刺激し学ぶ楽しさを身につけること、それが子どもの学ぶ意欲を育てることになるのです。

 夏休みが終わり、新しい季節の始まりに子ども達は目を輝かせています。実りの秋、子ども達に大きな収穫がもたらされるように親子で楽しく学ぶことにチャレンジしてみませんか。

 

第4回 自信をもった子どもを育てる

平成18年8月1日

 学童期の子どもは、関心や興味が仲間や社会へと急速に広がり、色々なことに好奇心を示し、新しいことを学ぼうとする意欲が旺盛になります。そして、教室での勉強だけではなく、家庭や社会の中で必要な知識や技能を身につけ、様々なことができるようになってきます。そうなると、子どもは集団の一員として、家庭の手伝いや学校や仲間同士での役割を積極的に果たそうとし、そこに強い喜びを感じるようになってきます。

 そうした手伝い体験や役割体験をとおして、子どもは「自分にもできるんだ!」という有効感を高め、自信をもつようになってきます。また、物事に対して忍耐強くまじめにがんばろうという勤勉性も育まれます。特にそれが困難を伴うことであればあるほどやり遂げたときの喜びは大きく、有能感は強いものとなります。しかし、失敗が繰り返されたり、努力の過程よりも結果のみが重視され過ぎると、逆に「自分はだめなんだ!自分にはできないんだ!」という劣等感を強めることになりかねません。そうならないためには、子どもの身近にいる人たちの対応がとても大切です。例え上手にできなくても、親や先生やあるいは友だちに温かく励ましてもらったり、努力を認めてもらったりすることができれば、その体験も肯定的に捉えることができるようになるからです。

 学童期は「自分には自分なりの力がある」という感覚をしっかり身につけることが大切だと言われています。この時期に自信を失い、劣等感の強い子になると、将来、社会にうまく適応していくことが難しくなるからです。

 今の時代は、ともすると勉強やスポーツなど特定の側面だけで子どもを評価しがちです。上述のように、学童期の子ども達は色々なことに興味・関心を持ち、学び、チャレンジしようとしています。自信をもった子どもを育てるためには、子どもを多角的にとらえて、その子なりの良さや伸びをほめたり、認めたり、励ましたりすることが、今とても大切なのです。

 学校の成績が思わしくなく、特技もない我が子をどのようにほめたらよいか分からないというおかあさんに出会うことがあります。しかし、集団の中では見えにくいその子の良さや地道な努力、その子なりの成長をしっかりと理解することは赤ちゃんのときから育てている親だからこそできることです。他の子と比較して見るのではなく、我が子なりの良さや伸びにしっかりと注目してください。そして「あなたの良さはちゃんとわかっているよ。」というメッセージを眼差しや態度で積極的に示してあげましょう。子どもは自分らしく成長していくための自信を心に刻み込むことができるはずです。

第3回 親子でしっかりコミュニケーション -その2-「聞き上手」な親になる

平成18年7月2日

 幼い時は無邪気に何でも話してくれた子どもも、成長とともに全てを親に打ち明けることが少なくなってきます。その傾向は小学校高学年頃から段々強くなってきます。心配のあまりあれこれ聞きだそうとしたり、言い聞かせようとすると、かえって適当に答えたり、ますます口をつぐんでしまうこともあります。

  学童期の後期は、生活の多くをまだ親に頼っていた幼児期末期や小学校低学年から、生活も心の面も「離乳」しようとする思春期とのいわば過渡期にあります。そのため中学生ほどではありませんが、親からの過度の干渉を嫌ったり、悩みや心配ごとがあっても親に素直に打ち明けるのをためらったりするようになってきます。親としては戸惑いますが、これは、子どもが自立しようとしている成長の証しで、喜ばしいことなのです。

 しかし、その一方で、親に「わかってもらいたい」「認めてもらいたい」「愛してもらいたい」という気持ちが幼いときと同じように強くあることも理解しておいてください。

  色々聞かれたり、非難・否定されること、あるいは一方的に指示・命令されることを嫌い、むっつりとしていたとしても、心の奥ではまだまだ親に甘えたいのです。

 このような微妙な心の状態にある子どもと、うまくコミュニケーションをとるためには「聞き上手」な親であることが大切です。その一番のポイントは「子どもの話に耳を傾けること」です。これは一見簡単なことのようですが、聞き役でいることは結構難しいものです。特に相手が我が子の場合は、つい言葉を先取りしたり、「言い聞かせなければ」と意気込んだり、叱ったりしがちです。これでは、親の不安や怒りの感情を子どもにぶつけているに過ぎません。子どもは反撥し、心を閉ざしてしまうだけです。人生の先輩である親としてまずは口をはさまず、子どもの言葉に耳を傾けることを心がけたいものです。日頃からそうした態度をとっていれば、子どもは自分が話したい時、聞いてもらいたい時、ごく自然に口を開くでしょう。そして、子どもなりの不安や心配ごとがあったとしても、親が耳を傾けてやるだけで子どもの心は安定し、元気に活動するエネルギーが湧き出でて来るものです。なお、失敗したり、良くないことをした時も、終わってしまったことにいつまでもこだわったり、問いつめたりはしないようにしましょう。過去のことよりもこれからのことを一緒に考えてやることです。子どもは自分の問題を自分で乗り越える力を持っています。子どもの力を信じて見守り、時に励ましたり、誉めてやることです。「親から認めてもらっている」という思いは子どもの自信となり、自立を促す大きな力となるでしょう。

第2回 親子でしっかりコミュニケーション

平成18年6月1日

 コミュニケーションとは、自分の思いを相手に伝えるとともに、相手の思いも受け止めることが基本です。

 親子の場合も同様に、親としての思いを子どもにしっかりと伝え、子どもの思いをしっかりと受け止めることが大切です。しかし、子どもは成長するに従って、親とは違った子どもなりの思いや主張を持つようになってくるものです。自分の思いを伝えようとすればするほど、親子でぶつかることがふえてきて、コミュニケーションをとるのもなかなか大変になってきます。親としてどのように子どもと関わればよいのか悩んでいるお父さんお母さんも多いようですが、「親子のぶつかり合い」もそう悪いものではありません。お互い真剣に自分の思いを伝えようとするからこそぶつかり合いが生じるのです。つい感情的になって、怒ったり泣いたりすることがあっても、本音を出し合う中で親の思いや子どもの気持ちをそれぞれに理解し合うことができ、また、お互いの距離の取り方も次第に上手になっていくものです。

 やがて訪れる思春期は親子の関係もデリケートな時期ではありますが、それまでの積み重ねの中で親の思いを伝えてきたという自信があれば、上手に距離をとりながら子どもを見守ることができるのではないでしょうか。

 あるお母さんから「親子のコミュニケーションの仕方を学ぶ教室がありますか?」と質問をされたことがあります。親子で同じ体験ができるイベントなどに参加してコミュニケーションを図るというのも一つの方法ですが、大切なのは毎日毎日の積み重ねです。日常の中でぶつかることを恐れずに、本音を出し合うことができる関係を築き、お互いに理解し合っていくことが大切なのです。

  学童期は頭をなでたり抱きしめたりといったスキンシップもまだまだ有効なコミュニケーション手段です。親子で一緒に泣いたり怒ったり笑ったりして、そしてしっかりと抱きしめながら親子の絆を深めていってください。

第1回「自分のことは自分で-自立に向けて-」

平成18年4月29日

 幼児期までは、事細かに世話をしてやらなければならなかったわが子が小学校に入学すると、親としてもほっとひと安心します。子育ても一段落、子どもはもう自分のことは自分でできるはずだという思いを抱いたりします。

 しかし、実際には「小学生になったから」「高学年になったから」今までできなかったことが突然できるようになるというわけではありません。「自分のことは自分で」本当にできるようになるためには、親が必要に応じてやり方をきちんと教えてやることが、この時期は大切です。子どもは体験したことのない、教えられたことのないことはわからないのです。そして、少しずつ自分でできるようになったら「自分ですること」に対し、「自分で責任を持つ」子にしましょう。

 例えば、1年生では翌日の学習の準備をする場合、最初は親が傍らについてやり方をきちんと教え、子ども自身にさせてください。そして上手にできたらしっかりほめてやってください。親が準備を全部してやると、子どもは忘れ物をすることもなく簡単ですが、それではいつまでたっても「自分のことは自分で」できる子にはなりません。それどころか、忘れ物があったときにそれが親の責任になってしまいます。私が小学校の教師をしていた時、忘れ物を届けに来て「ごめんね」と子どもに謝っていたお母さんがいました。その子は、お母さんに「ありがとう」と言うどころか文句を言っていました。また、調理実習の時「卵が入ってなかった!」と親に電話をかけて文句を言っている6年生もいました。忘れ物をしないようにすることはもちろん大切ですが、万が一忘れてしまったときは、親や他人のせいにするのではなく、自分の問題として受け止め、適切に対処できる子どもにしたいものです。

 学童期は一人前の「自立した大人」になるためのまさに「基礎」が完成する、とても重要な時期です。子どもはこの時期「自分のことは自分でしようとする心」を潜在的にもっています。むやみに手を出すのではなく、教えることは「教え」、あとは「任せ」、温かく「見守ってやる」親としての細かな気配りや配慮が必要になってきます。

 学校生活にも少し慣れてきて、忘れ物が多くなるこの時期、翌日の持ち物の準備という小さな事柄も、親のあり方によっては子どもの「自立」に向けての大きなきっかけになることです。子どもが忘れ物をしたのに気付き、届けてやった時、「お母さん、ありがとう!」という言葉が聞けたらいいですね。