木藤 政博 先生

~子どもが伸びるかかわり方~(第4回)

平成22年12月8日

 重度の自閉症と診断されたC君。他人と目を合わせることが苦手で、砂や水など触覚遊びにこだわっているように見えます。

 水遊びや砂遊びが唯一、自分を取り戻せることなのかもしれません。少なくとも周りの人は、“彼は水遊びが好きなのだ”“砂の感触に夢中になっているのだ”と、そう思って疑いません。

 「本当にそうなのだろうか?」と、疑ってみることから出発してみませんか?近づけば、そこから離れるかもしれません。また、言葉をかければ、知らないふりをするかもしれません。でも、次の日にも、同じように近づいてみましたか?何日間近づけば、C君が受け入れてくれるようになるかを確かめてみましたか?

 自閉症の特性として、変化に弱いということが言われています。でも、同じことが繰り返されれば、脳は慣れるとも言われています。

 穏やかな表情で、ゆっくり近づくことを繰り返せば、いつかは慣れ、共にいることを受け入れ、楽しみ、見つめ合うことがきっとできるようになるはずです。そんな接近の方法を、だれか試してみませんか?

 失敗と思ったことを繰り返す子どもはいません。それは、本能だからです。しかし、失敗したことに気付かず繰り返す子どもは多数います。今したことが失敗なのか成功なのか、社会のルールに照らし合わせて判断することができる子どもを育てることが肝要となってきます。

 私は今、人とのコミュニケーションに課題のある人たちを支援する職に就いていますが、時には、こちらが支援を受けていると感じることもあり、充実した毎日を送っていることは確かです。

 今までも、そしてこれからも、支援とは、双方向の気持ちや言葉の橋渡しだと実感している今日この頃です。

 

~子どもが伸びるかかわり方~(第3回)

平成22年11月6日

 「みんなと一緒にソフトボールがしたい。」と、そんな気持ちを表情や言葉で訴えてきたのは、Bさんでした。

 軽い麻痺があるため、バットを一定の軌跡でしか振ることができません。ソフトボールのルールも、彼女にとっては難しいようです。遊んでいる友だちの中に入っては三振やエラーを繰り返し、文句を言われています。でも、めげてはいませんでした。

 私が、二人で練習しようと誘うと喜んで参加してきました。柔らかいボールを打つ練習です。私が、彼女が振るバットの軌跡に合わせてボールを投げると、何とか当たります。これを繰り返し行っていると、6日目からバットの振りがスムーズになり、少し軌跡を外しても打てるようになりました。

 1ヶ月が経ったころ、打つことに関しては少し自信が付いたようです。同時に行っていた守備の練習でも、最初は、自分に向かって転がってきたボールのうち、足下を通り過ぎるものにさえ目で追うだけでしたが、3週間ほどで、自ら追いかけ、キャッチし、一塁に送球するほどの変容を見せました。
私は、このことから、自ら楽しく繰り返すことはとても大切なことだと、改めて思い知らされました。

 自分の意志で、また、自分のペースで、日常的に繰り返してこそ成果が現れるということを誰もが知っているのですが、大人はそれに気づかずに、訓練的に、強引に、大人のペースでやってしまうことが多いものです。

 しっかり抱いて→下に降ろして→ほっといて、の3段階で、子どもたちは成長します。私たち大人は、その子どもたちに寄り添い、そして、真の成長を促すために、今一度そのかかわり方を、子どもの思いに答えることで導き出す必要があるようです。

~子どもが伸びるかかわり方~(第2回)

平成22年10月6日

 養護学校小学部3年で知的障害のあるA君、言葉の数は豊富で、いつも教師に話しかけては笑い転げています。でも、教師の回答が一定のルーチン(※1)にならないと突然話すのをやめ、すっと離れて、別の教師に話しかけます。そして、自分の思うルーチンになるまで話しかけていきます。

 彼の思うとおりのやり取りになると、彼の表情は、これ以上のうれしさはないとばかりに喜びに満ちあふれ、いつまでもいつまでも話しかけ続けます。また、自分のルーチンに応える教師を探し回るようにもなります。

 その喜びを我慢させていいものかと迷うほど楽しそうなやり取りなのですが、その全く同じやり取りが4年近く続くと、さあ、考えものです。話し出すと、そのルーチンにならない限りうまくいきません。彼のルーチンをなくすにはどうしたらいいか、思い悩みました。

 幸い2階に常設された巧技台(※2)がありましたので、毎日20分ほど、二人で運動することを考え、「天気いいね」、「風、気持ちいいね」など、彼が興味を持っている天気の話をしながら2階へと導きました。「待っててね」と何度か私が巧技台をしているうちに彼も巧技台に慣れてきたようで、3日目に初めて自分から巧技台を使い始めました。こわごわと、手を差し出し、支えを要求しながらの一歩でした。9日目からは、差し出す手を握らず、ゆっくりゆっくり進むことができるようになりました。毎日の繰り返しの中で、できるようになった自分を実感し、自信を持って取り組めるようになったようでした。この自信が、一学期の終わりにはルーチンにこだわらないA君につながりました。

 ※1 ルーチン・・・決まりきった手続きや手順。日課。
 ※2 巧技台・・・梯子や一本橋などが付いた運動遊具

~子どもが伸びるかかわり方~(第1回)

平成22年9月8日

 数年前、子育てサークルで、生後2か月の赤ちゃんに出会ったことがありました。 にこにこ顔で、親指を吸うために盛んに手を口に持ってこようとしていました。おでこにぶつけたり、頬に触れたりしながら口に指を入れようとひたすらに頑張っていました。 2時間ほどの時間を、時々、まどろんだり笑ったりしながら腕を動かし続けていました。 口の近くまで親指がいくことあっても、その日は親指を吸うことはできませんでした。

 次の会合が約1か月後にありました。生後3か月になった彼と再会してびっくりしたのは、親指をスムーズに口に持っていき、うれしそうに吸っている姿を見た時です。あのたどたどしく、ぎこちなかった動きが、約1か月会わなかっただけなのに見事にコントロールされていました。だれからも強制されることなしに、自らの吸いたいという本能に従い繰り返し行ったことの成果が実感されました。

 彼の一所懸命な姿とそれを微笑みながら見守っている母親の優しい眼差しを見た時、幼児期の支援にかかわる者が、今の子どもの言動・姿をどうとらえるか、どう考えるかによって、その子の成長は大きく違ってくることを、三十有余年の教員生活の中で何度も何度も痛感したことを想い出します。

 障害なのか、経験したことがないからなのか、現実にできない・しないことは同じでも、その原因のとらえ方や支援の仕方で子どもの成長は大きく変わってきます。子どもの見方、とらえ方、支援の在り方について、子どもたちに教えられたこと、子どもたちから学んだことから考えてみたいと思います。