辻 いづみ 先生

~食べる・育つ~ 第6回 気分は・・・!?

平成19年3月31日

 保育園では、3月最終の日曜日に卒園式を無事に終え、新年度に向けて、新しいクラスへの引越しが終了しました。卒園した年長さんも、3月末まで登園してきます。
 年中組(ばなな組)から年長組(ぶどう組)のお部屋に移動した子どもたちに、卒園した年長さんがいると勘違いして、声をかけました。
「ぶどう組さ~ん、あれ、ばなな組さんだったね~。」すると、「ちがう!ぶどうぐみ!」
「え~~!?みんなは明日まで、ばななさんよ。」と、「ちがう!ぶ・ど・うさん!!」
「ん・・・?じゃあ、今日来ているぶどうさんは、何組さん??」に、「・・・・・・・・。」
 そう、気持ちは、もうぶどう組(園で一番大きいお兄さんお姉さん)なのです。

 さて、この数年「食育」という言葉が広まってきました。今、なぜ「食育」がクローズアップされているのでしょうか。
 「食事」は、乳幼児にとって、生活のリズムを刻み、人とのかかわりや、体や心を育て、愛情のこもった作り手の気持ちを届けるものです。
 これは、教えるというよりも、生活の中で伝えられ、感じることではないでしょうか。
 「早寝・早起き・朝ごはん」の合言葉に始まり、園で子どもたちが垣間見せる姿を借りて、保育現場の中で感じたことや、乳幼児期の子どもの育ちに大切と想うことをお伝えしたいと考えてきました。「食事」は、「餌」ではなく、心と体を育てるためには、なくてはならない大切なものです。世の中はどんどん便利になってきましたが、便利さに流されて、「食事」が「買い与える」ものになってしまわないように、気をつけたいですね。
 「食事」は、子どもたちにとって、おなかを満たすためだけではなく、何よりも心を満たすものであってほしいと願っています。
 その「食事」の第一歩は授乳。人間として生き始めた赤ちゃんが人との関係をつくる第一歩です。たくさんの子どもたちに出会ってくる中には「アイコンタクト」がとりずらいお子さんが時折います。一対一でお話をするときにも1~2歳で入園してくる頃にはすでに視線が合わないのです。
 授乳中のテレビやメール等で赤ちゃんと視線を合わせないことで、語りかけが少ないことが影響しているように思えるのは気のせいでしょうか。

 乳幼児期は、幼ければ幼いほど、子どもが依存している大人との関係や、生活のリズムが、心の育ちに密接に関係しているように感じます。
 どこかで生活のリズムが狂ってしまうと、情緒が不安定になる事が多いようです。
 子どもは子どもにちょうどよい生活リズムがあり、応答的なかかわりが必要です。
 大人の都合で、そのリズムをあまり崩さないように気をつけていきたいものです。
 『朝日の中で目覚め、応答してくれる信頼できる大人に養護され、しっかり食べて、しっかり遊び込み、夜にはぐっすり眠ること』が、気持ちの安定した、賢い、意欲のある子どもを育てる基本中の基本。コツのような気がします。
 さて皆さんは、目の前にいる幼子が、どんな青年・大人になってほしいと想いますか? 

 

~食べる・育つ~ 第5回 うれしくもあり、ちょっぴり寂しくもあり…

平成19年3月20日

 三月の声をきき、園内がにわかに慌ただしくなってきました。
 そんな大人の都合はドコ吹く風か、2月に生活発表会を終えた子どもたちは、一年の成長ぶりを発表し終え、その顔は自信に満ちて輝いています。
 特に年長児は、一年生になるという自覚が出来てきたのでしょうか、顔つきが締まり言葉使いにも、変化がみられます。
 ついこの前まで、朝のお当番活動が終わると、事務室の戸をガラッと開けるなり、「先生、終わったばい!」と言っていたのが、「失礼します。お当番終わりました。」と、帰ってきます。
 事務室を出るときも、「失礼しました。」と挨拶をしながら、年中・年少の子どもたちが挨拶するのを待っています。年長児から、年中児へ、少しずつバトンタッチが始まっているようです。
 園生活最後のクッキングは、3時のおやつにと、年下のクラスの子ども達と、職員全員に、南瓜クッキーを焼いてくれました。手作りの素朴なできあがり・・・出来上がったものを、一枚ずつラッピングして、「いままでありがとう。ぶどう組」のメッセージと共に、手渡してくれました。(もったいなくて、たべられないよ~!)
 年中・年長になっての芋掘り、片道6キロメートルを歩いて往復することに、万全の体制をとっていたとはいえ、内心「大丈夫かな?」と心配しました。親御さんにとっては私たち保育者以上に心配された事でしょう。心配のあまり、車でお迎えに来られたお母さんもおられたほどです。
お迎えの車に乗って手を振る友達を見ながら、「もう少しで保育園に着くとに、ここまで来たら、途中で帰られんよね~」「もうちょっとやのに、かわいそうかねー」とつぶやく子どもの一言に、この芋ほり遠征に挑戦し、互いに励ましあって乗り越えた仲間に対する想いと、歩き通した自分への自信を垣間見て、頼もしく、とても嬉しく思いました。

 子ども達と生活する中では、こんなこともできるのか、こんなに力があるのか、と驚かされることがたくさんあります。その、伸びる芽を知らず知らずに、良かれと思う親心で摘み取ってしまっていないか、親としての自分の在り様を見つめることも大切ですね。(私も反省大!)
 乳幼児期において、信頼できる大人とのかかわり、友達とのかかわり、いろんな経験と、その過程でさまざまに感じたことを根っこにして、人との関わり方や、思いやり、自負心や自尊心、挑戦する心や、粘り強さ、創造力や、創意工夫など、たくさんの若枝を伸ばすことを願って、年長組の皆を、小学校へ笑顔で送り出したいと思います。
(でも…やっぱり、さびしいな…卒園式で、今年もやっぱり泣いてしまうのかな~)

 

~食べる・育つ~ 第4回 何が育っているのだろう?

平成19年2月1日

 あっという間に1月が行き、逃げる2月がやってきました。
流れ行く月日に、子どもたちの成長も、目を見張るものがあります。
いつまでも、幼いと思っていた子が、案外しっかりしていたり、ちょっと頼りないかなと思っていた子が、小さい子のお世話をよくしてくれたり、落ち着きのない乱暴な子だと思っていたら、優しく粘り強く小さい子に教えたりと、思いがけない素敵な姿を見せてくれます。

 園には、3歳児~5歳児の縦割り20人位のグループが、6グループあり、毎日ひとグループずつ、事務室に来てはそれぞれがお手伝いに行きたいお部屋の、専用エプロンをつけて、0歳児~2歳児のお部屋にいそいそとお手伝いに行きます。
 「はい、○○ちゃん、おやつよ、あ~んして。」「この大根、お兄ちゃんたちが、育てたんよ。おいしかろ?」(野菜もおやつに出ます。)「いたかったね、よしよししようね。」「これは、こうするとよ、手伝っちゃあね。」と、お兄ちゃん、お姉ちゃんぶりを発揮しています。
 登園後9時から、午前のおやつが終わる10時までのほんの短い時間ですが、年上の子としての自信たっぷりな様子が垣間見られます。

 保育者よりも、小さい子の気持ちにぴったり寄り添っているように見えるのは、気のせいかしら・・・。
 「わたしも、こんなやったんやか?」「これは、ぶどう組さんが、灼熱魔王をやっつけてできた野菜やき、パワーがあるんばい。食べてみてん。」等々、小さい子のお世話をすることのなかから、確実に何かが育っているようです。

 余談ですが、お手伝いに行った子どもたちには、特別に小さい子と一緒に朝のおやつをもらえるという特典がついています。「内緒だからね。これは特別だから、秘密ね。」という保育士の言葉に、お手伝い活動を始めて3年になりますが、秘密を漏らす子が、ひとりもいないのにはビックリです。
 前回、「当たり前」の経験が少なくなっているのではないかという疑問を投げかけましたが、子どもにとって、「経験する事」が何につながっていくのでしょうか。

~食べる・育つ~ 第3回 食卓にのぼる食べ物

 平成19年1月6日

 新年を迎えいかがお過ごしですか?
 我が家では、暮れに家族がそろい、にぎやかなお正月でした。とはいえ2人は4日から学校です。短い休みですが、食卓を囲みながら、きょうだい3人が、互いの近況報告や情報交換をする様子は、こころ楽しい事です。

 さて、保育園では12月に年長組が、豚汁をつくりました。
皆で種をまき、育て収穫した細いりっぱな大根と、芽が出たので植えた里芋と、往復12?歩いて掘って来たさつま芋を、藁を使って洗いました。皮をむき、刻むときの目が真剣です。
 園庭では、U字溝(側溝に使うやつです)に炭をおこし、網の上では秋刀魚がモクモクと煙を上げています。もちろん消防署には「秋刀魚を焼きますが・・・」と、連絡済みです。
 煙の中、目を細めたり、顔をしかめたりしながら、秋刀魚を返す手にも力が入ります。なにせ、尾頭付きのお魚です。普段見慣れていないせいか、しげしげと眺めています。
 「秋刀魚も海では、元気に泳いでいたんだよね。」と保育士。「うん、食べると元気になるんばい。」「そうばい、ぜ~んぶ食べる。おいしいもんね。」と子どもたち。
 「骨がついてるから、気をつけるとよ。」「は~い。」「骨は、どっちが長いやろか。」とおいしそうなにおいをかぎながら、秋刀魚のまわりでのやりとりも楽しいひとときです。
 「これも焼いてください。」と、秋刀魚の骨がやってきました。骨せんべいにしろということらしいです。炭火で、カリッと焼き上げると、ぽりぽり食べてしまいました。
 お魚さん、あなたの命を丸ごといただきます!

 『そういえば、3歳児から骨付きのお魚を給食に出し始めたころは、骨がのどに刺さって、ご飯の丸呑みなどを試しても取れずに、医者に走った事もあったなあ。最近は、2歳から骨付き。みな上手に食べてるよなあ。』と、ひとり感心してしまいました。
 数年前、給食に魚のメニューがあると、「今日の魚には、骨がありました。気をつけてください。」と、保育士からの苦情に、調理員は『あんなに気をつけて骨を取り除いたのに・・・』と、がっかり。その当時、尾頭付きの魚なんて「とんでもない!」ことだったのです。
 でも、今は大丈夫。骨付きでも上手に食べられます。
 「魚には、骨がある。だから、気をつけて食べる。」・・・これは当たり前のことです。でも、その当たり前のことが、いつの間にか、当たり前でなくなり、同じように、子どもたちの前からたくさんの「当たり前」がなくなっているようです。
 便利さを、上手に利用しながらも、何が当たり前なのかを知らせることは、大人の責任ではないでしょうか?
 経験を通して、子どもたちは、できるようになるのに。知る事が出来るのに。感じる事ができるのに。そして、経験知として蓄える事ができるのに、もったいない。

『子どもが自分で出来るようになると、親も楽よ~。』・・・と、これは私の心の声でした。

~食べる・育つ~ 第2回 食卓で、なにを食べる?

平成18年12月1日

 前回は 朝ごはん のお話でしたね?
合い言葉を、覚えていますか?「早寝・早起き・朝ごはん!」ですよ。
朝ごはんを食べるには、早起きをしなければなりませんね。そこで、規則正しい生活習慣へのギアチェンジをするために、おすすめしているのは、「早寝」よりも、「とびっきりの早起き」なのです。
 早起きをして、朝日を浴びる。(目から朝の光が入ると、生体リズムがリセットされると言われていますよ。)そして、おいしい朝ごはんを食べて、身体にも心にもエネルギーを満たして、元気に活動する。そうすれば、疲れて「早寝」する。このサイクルがうまく回るようになるといいですね。

 さて、園では、朝、年長組のお当番さんが、きょうのお昼ごはんのメニューを、放送で、みんなに知らせてくれます。
 しばらくすると、給食室から、おいしそうなにおいが漂ってきます。
 お待ちかねの、お昼ごはんの時間です。ちょっと、様子を覗いてみましょう。
 今日のメニューには、焼いた秋刀魚が入っています。上手に骨を外して、おいしそうに食べています。こぼすことも少なくなってきました。
 と、思っていたら、食べこぼしの天才発見!
 よく観ると、身体が横を向いています。おまけに、お茶碗を口につけて、目はキョロキョロして落ち着かない。あれ、片足が椅子に上がっています。
 う~ん、なんでかな~~?
 「もしかして、お家でごはん食べる時、こっちにテレビがある?」と尋ねると、「すごい!なんで、わかるん?」との答え。言わずもがな。
 お家では、テレビの方を見ながら、強い刺激の前で、食べ物の味もわからず、時には口を動かすことも忘れてるんじゃないだろうか?
 だれとも口をきかずに、テレビの方を向いて、機械的に口に物を運んでいるのではないだろうか? …これって、大丈夫??
 きょうあったことや、おともだちのこと、いろんなことをおしゃべりをしながら、楽しく食べられているかしら?
 時には、静かにじっくり味わって食べられているかな?
 一緒に食卓を囲む人たちと「温かくて、おいしい」かかわりを持てているかな?

食卓で、子どもは何を食べているのでしょう?

 

~食べる・育つ~ 第1回 『朝ごはん』食べていますか?

平成18年11月14日

私が勤務する保育園には、子どもたちが、毎朝元気に登園してきます。

 9時を少し回って、お片づけがすんだら、「さあ、朝の体操です。」
 あれあれ…?さっきまで元気そうにしていた子の元気がなくなっています。心なしか、顔色も青いような気がします。
しょんぼりした様子のその子と、お話しているうちに、「ははあん、おなかが空いているんだ!」ということに思い当たりました。
 空腹を抱えて、エンストした車のように動けなくなって、床でゴロゴロしたり、しょんぼりしたり、イライラしてお友だちに突っかかったり、自分のクラスの活動にどうも入ってゆけない様子です。
 その様子を見かねて、小さなおにぎりを二つ給食の先生に作っていただき、事務室の奥のお部屋で、こっそり食べさせてみました。
 アラ不思議。たちまち元気を取り戻し、うれしそうにクラスへ帰っていきました。

 これは、実際に保育園の現場で起こっているお話です。
 「朝ごはん抜き」では、エネルギー切れになります。前日の夕食から、12時間以上食べずにいるのですから体の小さな乳幼児の変化は、見る見るうちに青菜に塩をかけたようになっていきます。
 さらに、脳を働かせているのは、ブドウ糖だということですから、欠食した子どもの脳は、活発には働かず、したがって、脳の働きから生み出される「心」も育っていかないのではないでしょうか。
 こうして、朝から十分な活動ができず、活動不足で夜眠れない、早起きできない子どもが出来上がっていくようです。

 子どもたちだけではありません。親御さんの中にも欠食される方がいらっしゃるようです。
「脳」も肝臓や、心臓と同様に、人間の体内にある、「臓器」のひとつですね。
栄養不足の脳から「強い心」は育つのでしょうか。親も子も大丈夫でしょうか?
とても心配です。

 今年4月から文部科学省は「早寝・早起き・朝ごはん」を提唱していますが、乳幼児期の、特に離乳完了期からの乳幼児と、その親御さんにとっては、人格の根幹を形成する時期の「朝ごはん」の規則正しい習慣は、とても大切なものですね。

はい!合言葉は、「早寝・早起き・朝ごはん!!」