坂井 邦子 先生

~母乳育児・離乳の支援~ 第6回 卒乳

平成20年4月2日

baby_04.gif
 離乳食が進むにつれて赤ちゃんは、自然と授乳回数が減っていき、1歳過ぎる頃には、3度の食事で栄養をまかなえるようになってきます。栄養補給という面では、母乳の役割は終わりといえます。最近では、赤ちゃんが母乳やミルクを卒業するという意味で、「卒乳」と呼ばれています。1歳過ぎたからといって、無理に母乳をやめさせる必要はないという考え方が主流になってきて「卒乳」という言葉が使われるようになりました。「卒乳」「断乳」「乳離れ」どの表現も同じような意味で使われています。今回は、卒乳のタイミング、卒乳のプロセス、卒乳後の母乳のケア、卒乳後の子どものケアについてお話します。

卒乳のタイミング
 卒乳には、特に決まった時期はありません。それはお母さんと赤ちゃんとで決めることなのです。ある日突然、お母さんの都合で、赤ちゃんに対して「もう飲んではダメ」という母乳のやめ方は、絶対にしないようにしましょう。先輩のお母さんはどんな時に卒乳を考えてきたかというと、「母乳の出が悪くなったから」「歯が生えてきたから」「離乳食が進んできたから」「2人目ができたから」「仕事復帰を考えて」などです。でもこれは、お母さんの都合で、赤ちゃんにはわからないことです。お母さんと赤ちゃんの体調がよい時に、卒乳の日を決めるのも1つのアイデアでしょう。

卒乳のプロセス
 卒乳のプロセスとしては、授乳の回数を減らす、離乳食後の授乳時間を少し減らす、1日に1~2回の授乳に慣れてきたら母乳をやめてみるなどがあります。何度も失敗してやっと成功した人、おじいちゃん・おばあちゃん総動員でやっと断乳に成功した人、ある日すんなり卒乳に成功した人、まだ母乳をやめたくなかったのに卒乳せざるを得なくなった人、2人目の赤ちゃんが生まれて赤ちゃんと一緒に再び母乳を飲み始め2回目の卒乳をした人等、赤ちゃんとお母さんの数だけエピソードがあります。mama_0401.gif

卒乳後の母乳ケア
 母乳をやめた後しばらくは、水分をひかえましょう。また、乳房のはりが強い時は、冷やしたタオルなどを当ててみてください。あまり乳房のはりがひどいときは、少しだけしぼってみると乳房が楽になります(絞りすぎないこと)。急に母乳をやめたりすると、乳腺炎等乳房のトラブルが起こるかもしれません。乳房が赤く腫れて、固く熱っぽいときは、早めに近くの助産所あるいは病院の助産師に相談してみましょう。助産師が相談に乗ってくれます。

卒乳後の子どものケア
 赤ちゃんは、時に口さみしく食べ物を求めることもありますが、なるべく気をまぎらす意味で遊んであげて、水分やおやつを少量与えてみるのもいいでしょう。坂井 邦子

~母乳育児・離乳の支援~第5回 離乳中期から後期にかけて

平成20年3月1日

baby_03.gif  離乳は、1日1回1さじずつから開始し、子どもの様子を見ながら無理のない方法で進めていきましょう。離乳が進むにつれて、1日2回食、3回食へと食事のリズムをつけ、生活リズムを整えていくようにするとよいでしょう。子どもにとって、食べる楽しさの体験を増やしていくようにしたいですね。
 今回は、離乳の食品の種類と組み合わせや離乳の完了についてお話します。


食品の種類と組み合わせ
・与える食品は、離乳の進行に応じ、食品の種類を少しずつ増やしていくとよいでしょう。
 ? 離乳の開始は、おかゆから始め、子どもの様子を見ながら量を増やしていきます。
    慣れてきたらじゃがいもや野菜、果物、さらに慣れてきら豆腐や白身魚など、種類を増やします。はちみつは満1歳までは使わないようにしましょう。

 ? 離乳は進むにつれ、卵は卵黄(固ゆで)から全卵へ、魚は白身魚から赤身魚、青身魚へと進めていきます。脂肪の多い肉類は少し遅らせるとよいでしょう。緑黄色野菜も徐々に取り入れていきましょう。

 ? 生後9か月以降は、鉄が不足しやすいので、赤身魚や肉を取り入れるようにするとよいでしょう。

food_03.gif このほか、離乳の進行に応じてベビーフードを利用するのもよいです。赤ちゃんは細菌の抵抗力が弱いので、調理を行なう際には、衛生面に十分に注意したいものですね。調味料はできるだけ使用せずに、食品のもつ味を生かしながら、薄味で調理するようにしましよう。

離乳の完了
・離乳の完了とは、形のある食物をかみつぶすことができるようになり、必要な栄養素の大部分を母乳またはミルク以外から取れるようになった状態をいいます。その時期は生後12か月から18か月頃です。

  離乳は、子どもの様子を見ながら進めていくようにしましょう。食事を通して子どもとのかかわりに自信がもてるようになるといいですね。
  次回は、母乳育児支援の最終回、卒乳についてお話します。どうぞお楽しみに! 坂井 邦子

~母乳育児・離乳の支援~第4回 そろそろ離乳

平成20年2月2日

spoon01.jpg生後5か月頃の赤ちゃんは、母乳またはミルク等の乳汁栄養のみでは、栄養素が不足しがちになります。特に、鉄・カルシュウムやビタミンC・D等が不足しがちです。この頃になると、首のすわりがしっかりし、支えてやるとお座りができるようになり、食べ物にも興味を示し、スプーンを口に入れても舌で押し出すことが少なくなってきます。また、この時期には、よだれが多く見られるようになってきますが、よだれが出るのは、赤ちゃんの消化・吸収が発達した証拠であり、そろそろ離乳を始める目安となります。そこで、今回は離乳の支援ポイントについてお話します。

離乳の支援ポイント

・離乳の開始
離乳の開始は、最近早くから開始されている人が多いようですが、赤ちゃんの発達からすると生後5・6か月頃が適当でしょう。離乳の開始時期が遅れると、体重増加不良や貧血などの栄養障害を起こすことがあるともいわれています。また、乳汁以外のものに慣れないで、離乳食を嫌がる場合も見られるようになります。

・離乳の進行
?離乳開始後ほぼ1か月間は、離乳食は1日1回与えるようにしましょう。母乳またはミルクは赤ちゃんの欲するままに与えましょう。この時期は、離乳食を飲み込むこと、その舌ざわりや味に慣れさせることが大事です。新しい食品を始めるにはスプーン1杯程度から与え、最初はつぶし粥、パン粥などドロドロ状のものを与え、慣れてきたら野菜の裏ごしなども与えてみましょう。嫌がる場合は、無理強いせず、日をあらため試してみましょう。

spoon02.jpg?離乳を開始して1か月を過ぎた頃から、離乳食は1日2回にしていきます。母乳またはミルクは離乳食の後に与えましょう。生後7,8か月頃からは舌でつぶせる固さのものを与えましょう。2回食の頃には、たんぱく質(卵黄,肉,魚)のものを取り入れてみましょう。

?生後9か月頃から、離乳食は1日3回にし、歯ぐきでつぶせる固さのものを与えてみましょう。食欲に応じて、離乳食の量を増やし、離乳食の後に母乳またはミルクを与えるようにしましょう。

初めて離乳食を準備し与える母親にとっては、不安やトラブルはつきものです。
それぞれの家庭に応じた無理のない離乳の進め方や内容や量を実践してみましょう。
次回は、離乳の食品の種類と組み合わせや離乳の完了についてお話します。坂井 邦子

~母乳育児・離乳の支援~第3回 母乳育児中に多い相談

平成20年1月1日

baby_1.gif 産後お母さんにとっては、生まれたばかりの赤ちゃんにどのように接してよいか分からず戸惑うことも多いと思います。その戸惑いのひとつに、母乳育児の相談も多く寄せられています。母乳育児が赤ちゃんにとって最良の栄養だと分かっても、赤ちゃんがいつも美味しく飲んでくれるとはかぎりません。赤ちゃんが泣いたら、まずオムツを替えてあげましょう。そのときは、声かけをしながらお尻や足を優しくなでてあげるのもいいでしょう。生後0~3ヶ月の赤ちゃんは、時間を気にせず赤ちゃんが欲しがるときに、母乳を与えましょう。お母さんは、ゆったりした気持ちで母乳を与えましょう。授乳後は、必ずゲップをさせてから寝かせましょう。今回は母乳育児中に多く寄せられる相談についてお話します。

母乳育児に多く寄せられる相談内容

・母乳にじょうずに吸いつかせるができない
乳首が柔らかいときは、そのまま乳首を含ませましょう。しかし、触ってみて乳首が硬いときは、乳首を少しマッサージして柔らかくしてから母乳を与えるようにしましょう。母乳を飲ませるときは、乳首の周りに少し黒ずんだところがありますが、その部分まで深く赤ちゃんの口の中に含ませるようにすると、母乳をじょうずに吸うことができるようになります。じょうずに吸っている時は、「うっくん」「うっくん」という音が聞こえます。

・時々乳首をかむ
母乳を飲ませようとすると、のけぞったり、乳首をかんだり、引っ張ったりする時は、日ごろお母さんが食べている食事に気をつけてみましょう。糖分・塩分・脂肪分を取りすぎたりしていませんか?

・体重が増えているか心配
母乳不足が考えられる場合は、授乳後に寝せるとすぐに泣いたりします。また、便や尿の回数が減り、尿の色も濃くなってきます。あまり気になるようであれば、病院に一度相談してみましょう。

・おっぱいが痛くなった(乳腺炎、しこり、亀裂など)
baby_2.gifお乳が張りすぎるときは、少し水分をとるのを控えめにしましょう。また、あまり張りすぎるときは、母乳を与えた後、母乳を搾り出すのもひとつ方法です。また、乳頭に亀裂が見られる場合は、乳頭保護器を使用するか直接授乳する時間を短め(片方3分程度)とし、後は搾ったお乳を与えるようにしましょう。

母乳育児でお困りの方は、お気軽に病院の母乳外来・母乳相談所・保健所等に、ご相談されてはいかがでしょう。どこでも専門の者が丁寧に相談に応じています。坂井 邦子

~母乳育児・離乳の支援~第2回 母乳育児のためのお母さんの食事

平成19年12月3日

food_01_a.jpg 前回は、母乳育児のメリットについてお話しました。今回は母乳育児を与え続けるために、お母さんが毎日取っている食事についてお話します。乳児期の子どもをもつお母さんは、食事について気をつけておられることと思います。
 さて、赤ちゃんは、味覚が発達していることをご存知でしたか?お母さんが食べた食品は、やがて母乳となり赤ちゃんの体内に取り込まれていきます。そこで、乳房にトラブルを起こさないために、また、赤ちゃんが母乳を美味しく飲んでくれるために、食事について気をつけて欲しいことをお話します。

母乳育児のための食事
≪食事は3食しっかり取るようにしましょう≫
母乳育児は、お母さんにも赤ちゃんにも最良の方法です。そのためには、食事を3食しっかり取り、妊娠中から健康なからだづくりに心がけましょう。

food_02_a.jpg
≪和食中心の食事を心がけましょう≫
日本古来の和食は、栄養をバランスよく食品を取ることができ、母乳育児中は特におすすめです。また、蛋白源としては、魚・大豆製品などを中心に取るようにし、比較的低カロリ-となるようにしましょう。根菜類(大根・カブ・ごぼうなど)や緑黄食野菜(小松菜・ほうれん草・かぼちゃ・人参など)は、旬のものを積極的に取るようにしましょう。

≪乳腺を詰まりやすくする食品や母乳の質を悪くする食品の取りすぎに注意しましょう≫
揚げものなどのカロリーが高いもの、特にバターなどの動物性脂肪の取りすぎは、乳腺を詰まりやすくします。ケーキ、チョコレートなどの甘いものや塩分の取りすぎは、母乳の質を悪くするので注意しましょう。牛乳は、1日1本(200ml)程度としましょう。

≪たばことお酒の害から赤ちゃんを守りましょう≫たばこやお酒は、母乳分泌に影響を与えます。禁煙や禁酒に努め、周囲の方にも協力してもらいましょう。

厚生労働省のホームページに「妊産婦のための食事生活指針」が記載されています。1度のぞいて見てみませんか。 坂井 邦子
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/h0201-3.html

 

~母乳育児・離乳の支援~第1回 母乳育児のメリットについて考えてみましょう。≪母乳、評価再び≫

平成19年10月30日

 

ミルク.JPG 赤ちゃんが生まれたら出来るだけ母乳を与えましょう。母乳育児が今再び見直されています。そこで、今回は是非みなさんに母子の健康をはかるうえでも母乳育児のメリットをよく知っていただきたいと思います。また、多くの出産施設では母乳育児の支援の一つとして「赤ちゃんが欲しがる時はいつでも母乳をあげられるように母児同室」を行なっています。退院後も当分の間あきらめずに「泣いたら吸わせる」を繰り返してみましょう。

母乳育児のメリット
≪母子間のつよいきずなができます≫
赤ちゃんにとって、直接母親との肌と肌のふれあいは、母子間のつよいきずなができます。
ゆったりとした気持ちで、楽しみながら母乳をあげてください。

≪栄養学的に母乳は最適です≫
母乳は、消化・吸収の面からも最高の贈り物です。さらに、免疫物質を豊富に含んでいるために、病気に対する抵抗力を高め病気にかかりにくくなります。

≪あごや脳の発達によい影響を与えます≫
母乳を飲むためには、赤ちゃんのあごや舌をじょうずに使わないと母乳が飲めません。この母乳を吸う運動は、あごや脳に刺激を与え、赤ちゃんにとってよい影響を与えます。

≪その他≫
   ・ 卵巣腫瘍や乳がんにかかりにくいといわれています。
   ・ 乳幼児突然症候群にもかかりにくいといわれています。

このように、母乳育児は母親にとっても、赤ちゃんにとってもすばらしいものなのです。
しかし、母乳を授乳できないお母さんもいます。このような場合、大事なのは愛情、赤ちゃんをしっかり抱っこし目を見つめながらミルクを与えるようにしましょう。坂井 邦子