原田 幸子 先生・山岡 珠美 先生・安倍 正子 先生

~人間関係を豊かに~第6回 子どもの気持ち

平成19年10月3日

 9月のある日、降園前の片付けの時4歳児の保育室でI男が泣いており傍らにはI男を睨みつけているS男がいました。「僕が作った物をS君が取った」とI男「だって僕のやもん」とS男、「そう、どんな物。見せてくれる?」「いやだ」と素直に自分の気持ちを表わせないS男、すると、I男が「先生来て!」と手をひっぱりS男のロッカーの所に連れて行くと、慌てて走ってきたS男はロッカーの前に立塞がり睨みつけています。

IMG_4495.jpg なかなか解決がつかないので「I君が困っているのでちょっとだけ見せてね」と、保育者がS男のロッカーから作品を取り出しました。数点の同じ様な作品が出てくると「それ僕が作ったと」と主張するI男、すかさず「これ僕の」とS男、「僕が作ったと」I男、お互いの主張の繰り返しでいつまでも平行線です。
  確かに作ったのはI男であるのは間違いでない様なのですが、なぜS男がI男の作った物を自分の物だと主張し続けるのか分かりませんでした。そこで、I男とS男の両方の主張を受け止め「ひょっとしたら一緒に作った?」と尋ねてみました。「そう」とI男、「そう、最初ぼくが作ったと。それを見てI男君が真似して作ったと。だから、これは僕のもん」とS男、「そう、S男君は自分が考えたのでI男君が見て作った物も、S男君の物ということね」と言うと、S男はコクリとうなずきました。
  「あーわかった、そうなんだ。アイデアがS男君、作ったのはI男君ね」と、それぞれが主張している気持ちを保育者が受け止め、受け入れると、お互いに気持ちがすっきりしたようで、I男は「それいい、明日また作る」と、作った物を相手に譲ってやる気持ちが生まれ、また、S男は穏やかな顔になり作品を大事そうにロッカーに入れる姿が見られました。

IMG_4634.jpg 子どもは、思いをぶつけあい、自分の思いを受け止められることによって心に余裕が生まれ、相手の気持ちを受け止めることができるようになり、それを繰り返しながら人とのかかわり方を学んでいきます。なによりもこの経験の積み重ねが大事です。日々の雑事に追われて忙しいでしょうが、子どもの話をよく聞き、まず子どもの気持ちを丁寧に受け止めることですね。大人が善悪を決めつけたり方向性を示唆したりせず・・・。心に余裕がないとできないですね。よく話を聴いてもらった子どもは人の話もよく聴こうとするんですよ。(篠栗町立北勢門幼稚園 阿倍 正子 先生)

~人間関係を豊かに~第5回 ここは自分がすわるところ

平成19年9月4日

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 園生活におけるいざこざ・けんかは、人とかかわる力を身につけていく大事な経験です。
 7月のある日、幼稚園でお弁当の時Y男とF男が好きなR男の横に座って食べたいということで、席の取り合いが起こりました。「僕が座る所にF君が坐っとう」とY男、「誰もおらんかったから僕が座ったと」とF男、「でも僕が早かった」とY男が主張し続けます。それを見ていた周りの子たちが「交代したらいい」というと、「7(時計の針が)になったら交代しよう。だって半分ずつやもん」と、お弁当の時間を半分にしその日のうちに交代というY男、「今日は僕で、明日がY男君」と一日交代というF男と、再びそれぞれの思いを主張しはじめ、解決の方向を見出すことは容易ではありませんでした。なかなか解決できないのでY男が急に実力行使に出始め「7やん、7になったら交代」と割り込みました。F男も負けていません。「そしたら、絶対にこの場所には座らせん。ずーとね」と、二人の言葉のやり取りが激しくなりました。そこで保育者が「先にY男君が取っていたのね。F男くんは誰もいないので座っていたのね」と、それぞれの主張を双方に分かるように伝え問題を確認していきました。するとF男が「いいたい、7で交代してやる」と急に譲歩し始めました。Y男は気持ちの整理がつかないのか「チッチキチ・・」と奇妙な動作をしながら部屋から出ていってしまいました。少ししてY男が気持ちを落ち着かせ戻ってくると、F男が「いい、今すぐ変わってやる」と全面的にY男に譲ると「ありがとう」と自分から素直に言葉で気持ちを表現できました。
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 大人が先回りをして譲ってやることを強要することは、その場をうまく収めているようであっても、結果として子どもに心は育ちません。解決に時間がかかっても自分の要求を互いにぶっつけ合いながら繰り返し経験していく事で、相手の気持ちに気づいたり自分を抑えたりすることができるようになります。
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 そのためには、ありのままの自分を出せる環境や、大人が日頃から子どもの話を子どもの目線でじっくり聞いてやることが大切ですね。そして、危険がなければ大らかに見守ってあげましょう。(篠栗町立北勢門幼稚園 阿倍 正子 先生)

~人間関係を豊かに~第4回 地域の人たちとの交流

平成19年8月3日

  少子化・核家族の時代の今、親戚や地域の人とのかかわりも希薄になって、いろいろな人の中でいろいろな経験をすることがなくなっています。幼稚園では、同年齢の友だちや異年齢のかかわわりだけでなく、地域のいろいろな方とのかかわる機会を設けています。
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絵本の読み聞かせ会のボランティアの方や職場体験での中学生、幼稚園の隣にある泯江苑のお年寄りや地域の方との交流、社会教育総合センターでのいろいろな体験などです。地域の方との交流.JPG 


 






社会教育総合センターでのいろいろな体験.JPG


職場体験での中学生.JPG 職場体験では、中学生が子どもたちと一緒に遊んだり、おんぶや抱っこをしてくれたり、ボール遊びを教えてくれたりします。<たった3日間程度の関わりですが、道であったりすると、「あっ、中学校のおにいちゃんだ。」と声をかけたり、「きのう、中学校のお姉ちゃんにあったよ」と幼稚園で嬉しそうに話してくれます。

又、泯江苑のお年寄りを運動会や音楽発表会などに招待し、子どもたちの活動を見てもらったり、一緒に玉入れをしてもらったりしています。お年寄りの方は、子どもたちの活動一つ一つに、「じょうずやね」「かわいいね」と惜しみない拍手や声援をくださいます。
 終わった後に「どきどきした」「拍手してもらって嬉しかった」「上手っていいんしゃったよ」など、それぞれにいろんなことを感じているようです。
 日ごろ、あまり関わることのできない中学生のお兄ちゃんやお姉ちゃん、お年寄りとの触れ合いのなかで、子どもたちが親しみを感じたり優しさを感じたりしながら、子どもたちの豊かな心の成長につながっていって欲しいと思っています。
 人とのかかわり方を自然に学び社会性や自主性を育んでいく場をこれからも大切にしていきたいです。(篠栗町立篠栗幼稚園主任 山岡 珠美 先生)

~人間関係を豊かに~第3回 子どもの井戸端会議

平成19年7月4日

どろだんご.JPG  今、子どもたちの遊びの中で人気があるのが、どろだんご作りです。一言にどろだんごと言っても奥が深いんですよ。 
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  粘りのある土で小さな「だんご」を作ります。それに「さらさら土」をかけ、又水で濡らして「さらさら土」をかけるということを何度も何度も繰り返します。徐々に大きくなっただんごを今度は布で磨くと、最後は「つるつる光った固いだんご」になるのです。

橋の下での年少と年長の交流.JPG  子どもたちは、園内の太鼓橋の下の土を使えば、上手く作れるということを前の大きい組の遊びを見て知っています。年長組が橋の下に集まってだんご作りを始めると、年少組が遠巻きに見ています。それを見た年長組が、『作っちゃろうか?』と言って小さなだんごを作ってくれると、それをもとに自分で「さらさら土」をかけてだんごらしきものができあがります。この橋の下で、年少と年長の交流が見られます。
 
「さらさら土」をかける.JPG  
  先日、橋の両側にある「さらさら土」の左側に女の子が集まっていました。『その土を使うとピカピカに光るんやろ?』『うん。でもね、こっち側の土じゃないといかんとよ。』『どうして?』『だってね。あっち(右側)の土は石が一杯はいっとうけんガサガサすると。』

  一見、どろだんごつくりは単純な遊びに見えますが子どもは『こんなだんごを作りたい』と自分で課題を持って、試行錯誤したり工夫したりしています。また、一人遊びのように見えますが、一緒の場に居る友だちと、発見したことや考え出したことなどの情報交換をしたり、身の回りの出来事を報告しあったりしています。

  このように仲間と楽しさを共有する遊びの中で、また一緒に遊びたい、仲良くしたいという気持ちを持つようになり、そのことが相手のことを思いやったりすることにつながっていくのではないでしょうか。

  お母さんも汚れていい服に着替えて、お子さんと一緒に、どろだんご作りに挑戦してみませんか?(篠栗町立篠栗幼稚園主任 山岡 珠美 先生)

~人間関係を豊かに~第2回 叩く

平成19年6月1日

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今回は一見いじめに見える子どもの行動についてお話します。仲良しのA子、B子、C子、D子たちが今日もままごと遊びを始めました。A子はお母さん、B子はお姉さん、C子とD子は子どもです。しばらくするとC子達は目に涙をためていました。

教師「どうしたの?」
C子「A子ちゃんが何にもしてないとに叩いた」
教師「そう、叩かれたの、痛かったね。」
教師「A子ちゃん、C子ちゃん達を叩いたの?」
A子「だって、ご飯が出来たから帰っておいでって言っても来ないもん。お母さんの言うことを聞かなかったから怒ったの!」
教師「そう。C子ちゃんとD子ちゃんはお母さんの言うことを聞かなかったのね。A子ちゃんさびしかったんだ。だから叩いたのね。
教師「C子ちゃんたちは呼ばれたのが分からなかったの?」
C子「まだ遊びたかったもん」
教師「もっと遊びたかったんだね。でもA子ちゃん、さびしかったって。」
A子「うーん・・・。だって、子どもはおかあさんのいうことは聞かないかんとよ。聞かんかったら叩かれるとよ。」
教師「そうなのね、A子ちゃんのお母さんは叩くのね。」
教師 「A子ちゃん、お母さんから叩かれたときどんな気持ちがする?」
A子「嫌だ!怖い」
教師「そうね、怖いよね、痛いよね、C子ちゃん達も怖かったみたいよ」
A子「だって・・・」  
教師「A子ちゃんはね、みんなが遊びに行ってさびしかったんだって。叩いたらいけないって知らなかったの。」
B子、C子、D子「・・・。」
4人は何事もなかったようにまた、ままごと遊びを始めました。大人は叩いた現場を見てすぐに「叩いたらだめでしょ!」と行動だけを咎めがちですが、結構子どもには「わけ」があり、その行動には大人が誘引となっていることが多いようですね。(篠栗町立勢門幼稚園主任 原田 幸子 先生)

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~人間関係を豊かに~第1回・・・子どものこころに寄り添って・・・

平成19年5月9日

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  幼稚園は遊具やおもちゃが沢山あって、しかも同年齢の子どもたちがいて、概ね楽しいところです。でもそのせいで幼稚園の中ではいざこざがよく起こります。その時子どもはおかあさんの手助けがなくそれを乗り越えなければなりません。でもこのいざこざが当事者は勿論、周りの子どもたちの心を豊かにしていくのです。
  たとえば・・・
  たまたま同じ場所で楽しくブロック遊びをしていたA男とB男。A男は飛行機、B男はロボットをつくっています。A男はいきなりB男からブロックを取り上げ自分の飛行機にくっつけました。B男はびっくりしてA男からブロックを取り返そうとしましたが、A男はなかなか返しません。ついにB男はA男を叩きA男は泣き出してしまいました。大人はすぐに、きっかけを作ったA男に「先に取ったでしょ!だめじゃない」と言ってしまうでしょう。
  でも、A男もB男も自己主張をしたのです。幼稚園では先ず「自分のものにしたかったのね」「痛かったのね」「悔しかったのね」とそれぞれの気持ちを言葉にして共感をします。子どもはそのことで「気持ちをわかってくれた」と心を和ませ、心を開きます。そして自分がブロックを取られたら、自分が叩かれたらどんな気持ちがするのか考えることができるようになります。そして相手の気持ちに気づいて来るのです。先生や友だちから支えられ、先生や友だちの温かさに気づいていきます。そして周りの子どももその出来事の成り行きをじっと見ていて学ぶのです。
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  おかあさんは『幼稚園の中では悲しい思いはして欲しくない』と思うものです。お子さんが「ちっとも面白くない、もう幼稚園には行きたくない」と言って幼稚園から帰ってこられる日もあるでしょう。おかあさんはそのお子さんの気持ちに共感しながらも『今、心が育っている途中なんだ』と広い心と温かい愛情を持ってお子さんのすべてを受け止めてあげてくださいね。きっと翌日は元気になって、いざこざがあった子どもと仲良く遊べると思いますよ。(篠栗町立勢門幼稚園主任 原田 幸子 先生)