平成28年5月27日
私が担当する精神科の病棟には、常に2~3人の若年の摂食障害の患者さんが入院されています。ある時、病棟に行くと「この患者さんを見てください。この子は命の危険性があります。」と医師に言われ、病室に行くと色白で長身の女の子がベッドに横になっていました。彼女は17歳の高校生、一番みずみずしくはつらつとした時期なのに、ベッドに横たわった足は骨に皮がくっついているだけの極度のるい痩(※1)状態で、体重26㎏ BMI 8.8(※2)という今まで見たこともない高度の『痩せ』で歩くことも困難な状態でした。リフィーディング症候群を呈しており、すぐにに栄養治療しないと本当に生命に危険がありました。
そこで病院のチーム医療であるNST(栄養サポートチーム)が栄養治療を開始しました。リフィーディング症候群とは著しい栄養障害(飢餓状態)患者に栄養療法を急速・過剰に行った場合に発症する代謝性合併症であり、重症化すると死に至ることがあるので、NSTは少しずつチューブで栄養を入れていきました。彼女は11歳の時、友人にからかわれたことをきっかけに食事制限と下剤の濫用を開始し、今回、高度のるい痩、生命の危機があるという状態で入院となりました。栄養治療の結果、この子は無事に退院することができましたが、世界的に有名なポップスグループのヴォーカルだったカレン・カーペンターが1983年に摂食障害(拒食症)が原因で亡くなったことをご記憶されている方もいらっしゃるでしょう。
「思春期やせ病」ともいわれるこの病気は、自ら食事を拒み、やせ願望のために拒食するもので、その逆に大食と嘔吐を繰り返す過食症とあわせて「摂食障害」とよばれています。治療にはカウンセリングを含めた行動療法と、正しい食事療法を本人が自覚し目標を持って取り組めるよう時間をかけて行います。精神的な要因が多い中、特に家族関係は重要な治療のポイントとなることから、日頃からの対話や過度な期待をかけるような言動には注意が必要です。
わが国では厚生労働省が健康日本21で“子どもと成人の肥満と若い女性の痩せを減少する”ことを目標に掲げています。飽食の時代、好きなものを好きなだけ食べて肥満になる人、女優体重を目指しすぎて痩せていても太っていると思い込み食べて吐いて痩せる人、様々な日本人がいますが健康的な適正体重はBMI 22といわれています。
※1 るい痩・・・「やせ」の状態が著しいこと
※2 Body Mass Index(体格指数)という肥満度をあらわす国際的な指標
BMI = 体重(kg)÷ 身長(m)2