令和2年2月17日
「かわいい子には旅をさせよ」と言いますが、親元を離れての「旅」は、送り出す親にとっても旅立つ子どもにとっても、それぞれにドキドキするものではないでしょうか。
私たちは、小学生を対象とした宿泊を伴うプログラムも行っています。参加する子どもたちにとって、これが初めての「旅」であることも少なくはありません。そうなると切っても切り離せないのが「ホームシック」。そのほとんどは低学年の子どもたちだと思われがちですが、高学年の子どもたちも同じなんです。
◆5泊の通学合宿に参加した小学6年生のカイくん(仮名)◆
同じ学校の6年生8名で、一緒に寝泊まりしながら学校へ行く通学合宿をしていたときのこと。2日目の夜、寝る前にカイくんが泣きながら私のところにやってきました。「どうしたんか」と尋ねると、「さみしい、家に帰りたい。お母さんに電話して」とのこと。しばらく2人で話をした後、「明日、お母さんに電話して、お母さんに決めてもらおう。そしてお母さんが決めたことが何であれ、それに2人とも従う」という約束をして、その日は就寝しました。
翌朝、子どもたちが小学校に登校した後に、カイくんのお母さんに伝えました。返事は「今は家に帰らないで、もう少しがんばってほしい」。さて、これをカイくんに、いつどんなふうに伝えるか…「学校に迎えに行ってすぐに伝えようか。いや、カイくんの荷物は、まだ合宿先にあることだし戻ってから伝えようか」…迷いました。そして、下校時間。カイくんは、僕のそばに来て開口一番に言いました。「電話の件は、もういいです。がんばります」と。
しかし、カイくんの心は、完全に吹っ切れたわけはありませんでした。ご飯を炊く当番だったカイくんに、お米を測る単位についての説明をして、「家で毎日どれくらいお米食べてる?」と尋ねると、「お父さんが2杯、お母さんが…」で号泣。それからも、友だちと楽しそうに話していたと思えば、何かの拍子にまた涙がツーっと流れます。周りの子どもたちも、はじめカイくんが泣き出したところを見て、何事か分からずに「カイくんが泣きよる」と言ってきていたのですが、事情を察するとそのことには触れないようになったり、できるだけ家のことを考えないように、隙間時間で話しかけに行ったり、一人の時間を少なくしたり…そんな気配りや支えがありました。
最後の夜には、「明日帰れるね。よくがんばったね」と声をかけると大号泣でした。「がんばります」の一言は、カイくんが葛藤の中で「覚悟を決め」て発した言葉でした。そして、6日目の朝、カイくんがお母さん、お父さんと会って見せた笑顔はとてもいいものでした。
「九九の八の段が言えるようになった」「さかあがりができるようになった」など成果が見えやすい勉強やスポーツとは違い、体験活動では、子どもたちが成長する瞬間を目の当たりにすることはなかなかできません。それは、体験し、考え、それを次の行動につなげ、さらに考えを深めて…の繰り返しからなる体験活動は、子どもが将来活かせる「根っこ」としての力になるものだからです。
「かわいい子」だからこそ、目の前の喜びや成果だけでなく、将来に目を向けて、自立するためのりっぱな根を育てていくことが必要。それができるのは、私たち周りにいる大人であり、「旅」に出せるのは親の役割のひとつだと感じます。そして、子どもたちは必ず、成長という「お土産」を持ち帰ってくれるのでしょう。