~じっくり、たっぷりあそぶことは、子どもの財産!~第4回 「ス漬の生活」でのあそびの変質

平成20年8月1日

 私が教育学部の学生だった1980年前後、「子どものあそび」を扱う授業で「三間の喪失」という言葉がしばしば出てきました。明石家さんまの人気が関西ローカルから全国区になった頃・・・。「三間」の一つ、「空間」について、仙田満氏(『子どもとあそび』;岩波新書)は、高度経済成長真っ只中の1965年を境にして、子どもの「室内あそび」と「戸外あそび」の時間が逆転したと指摘します。

 それから30年、子どもたちは、三つの「ス」にどっぷり漬かった「ス漬の生活」をおくっています。まず、「スクリーン」。テレビ、ビデオの普及にくわえ、「ファミコン」(1983年)、「ゲームボーイ」(1989年)の販売開始を契機とした「テレビゲーム」の出現によって子どもたちは、スクリーンを見つめながら過ごす生活に取り込まれていきました。二つ目は「スクール」。ベネッセの調査(2006年)によれば、1歳~6歳までの58%、6歳児では86%が習い事(定期的に教材が送られてくる通信教育を含む)に参加しています。私が実施している幼児の生活スタイル調査では、2~3種を掛け持ちし、週3~4日の頻度で習い事に通っているという降園後、休日の忙しそうな幼児の様子もうかがえます。三つ目の「ス」は、「スポーツ」。異年齢集団の中でからだを思いっきり動かした、かつての「戸外あそび」は、7月号で指摘した運動を「習う」キッズスポーツ産業にとって変わられた感があります。

 あそびの「空間」「時間」「仲間」の減少という量的な側面を指摘した「三間の喪失」にくわえ、「ス漬の生活」は、子どものあそびの質的な側面の変容に示唆を与えます。かつてのあそびは、何人かの友だちと、屋外で、からだを動かしながら、これといった玩具も使わず、1人ひとりが創意工夫をこらしつつ、子どもだけの世界であそぶという特徴がありました。だからこそ、体力、直接経験、社会性、創造性、やる気、精神的な安定など様々なことをあそびの中で育むことができました。しかし、今の時代を生きる子どもたちは、1人きりで、屋内で、からだを動かすことなしに、メカに囲まれて、メカの指示に従う受身の形で、大人との関連の中で時を過ごす・・・、こうしたあそびの変質の中で、「からだとこころの育ちそびれ」への深刻な懸念が広がっています。子どもがいろいろな人(他者)とかかわり、様々な事物と直接出会い、身体感覚を伴って複合的に実感する、体験を通じて学ぶ場を提供するために、保育者、保護者、そして地域の大人が連携していくことが求められています。鐘ケ江 淳一

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