平成24年8月18日
Tちゃんが入園してきたのは2歳の時でした。
入園式の時、お母さんは「この子は何でもできます。ただ、足が不自由なだけですから。」と語気を荒げて話されました。「はじめてのお子様で、お母さんは心配なさったでしょう。」と言うと少し驚かれた様子でした。
翌日、お母さんからの連絡ノートに、「体が不自由だから集団の中で過ごした方がよいのではと考え、心を鬼にして入園を決めました。不安と心張り裂ける思いでいっぱいでした。昨日は、車に乗った途端、嬉しさのあまり泣き出してしまい、涙が止まりませんでした。心が解けました。よろしくお願いします。」と書いてありました。
5歳でTちゃんを再担任し、いよいよ卒園する2月末、15人の子どもたちの前で「Tちゃんは優しいし、頑張るし、お友達もいっぱいいます。もし小学校で、Tちゃんの足のことを馬鹿にしたり、からかったりする人がいたら、先生はすぐに学校に行って叱るからね。」という話をしました。
同時に、卒園児のC君(5年生)に会って、「今度1年生になるTちゃんは足が不自由なんだけど、かわいい子なのよ。C君、できたら1日に1回、どの時間でもいいから1年生の教室に行って、『Tちゃん、おはよう!』とか『Tちゃん、元気かい!』と声をかけてくれないかな。」と頼みました。
サッカーをしているC君は、友達を連れて1年生の教室へ行き、「Tちゃん、勉強したかい?」「Tちゃん、おはよう!」と声をかけてくれました。
Tちゃんは、「先生、僕は学校で人気絶頂ばい。知らないお兄ちゃんたちからTちゃん、Tちゃん言われるんばい!」目に見えないバリアで守ってもらったTちゃん。守り通してくれたC君。感謝の気持ちでいっぱいでした。
C君が小学校卒業の日、C君は誇らしげに私の所に挨拶に来ました。言葉にできないほどの感謝の気持ちとC君の育ちに「おめでとう、そして、ありがとう」と伝えました。すると、「先生、ありがとうやらいいよ。今度ぼく中学生やき、Tちゃんのこと守れんけど、サッカーの後輩に頼もうと思っとるけどどうする?」とC君。「C君ありがとう。Tちゃんももう一人で立ち向かえるかもしれないから、ちょっと様子を見てみようか。」と言うと、C君は、「ぼくもそう思った。きつかったときに頼むことにした方がいいと思う。」と言いました。頼もしく育ったC君に感謝し、Tちゃんを見守ることにしました。
3年生になった5月の連休後のことでした。Tちゃんが、「ぼくの足のことを馬鹿にして、笑われた!」と泣いて園に来ました。ところが、帰るころになると「ぼく一人で頑張ってみる。笑われたっていいもん。」と自分から言い出したのです。
苦しいこともあったことでしょう。しかし、Tちゃんは、一歩一歩、自分で風を受け、ふらつきながらも力強く生きているのです。それは、彼が温かい先輩たちの、友達の、そして大人の真の愛情をしっかりと受け止めたからではないでしょうか。