平成19年3月2日
通学合宿という生活体験プログラムの実践を通して実感したことの一つは、子どもに他人とともに暮らす喜びと苦しみを体験させる必要があるということです。10人程度の集団で、1週間という期間、文字通り「同じ釜の飯を食う」生活をしますと、必ず「わがまま」「自分勝手」「仕事の放棄」といった、いわば小さな事件が発生します。このような小さな対立や抗争を乗り越えて解決する体験は、子どもが近い将来直面するであろう人間関係のより大きな困難から、逃げ出すことなく乗り切っていくための大切なトレーニングだと思います。
小学校2年生、3年生に上級生と一緒に合宿させますと、現代の子ども達には義姉義兄体験の場が人工的に設定される必要があることが分かってきます。弟妹の世話をするということは、何をどのように行うことであるかを、共同生活の体験を通して学んでいる子どもの姿は、子どもの生活から失われた人間関係体験の補完の必要性を大人に気づかせてくれます。
子ども同士だけでなく、子どもと大人の人間関係体験も大変希薄なものになっています。門脇厚志先生(筑波学院大学々長)は、「社会力」という言葉を造語し、「人が人といい関係を築きながら、社会を作っていく資質や能力」と定義されました。門脇先生は、わが国の若い世代の社会力が衰退した第1の原因に、「大人と交わる絶対量が著しく減ったこと」をあげておられます。子どもを一人前の大人に育てることが親と関係者の責務ですから、そのためには子どもと子どもだけでなく、子どもと大人の人間的接触、交流を飛躍的に拡充していくことが必須の課題です。子どもが知っている大人といえば、親と先生を除けば、ほとんどいないというのでは、子どもが大人になるためのモデルも目標もないことになります。子どもが参考にしたい存在が欲しいと思っても、身近に生きた存在はないというのでは、子どもは一人前の大人にはなりにくいといえましょう。