2.乳幼児期の子どもをもつ家庭へ、「保育園への行き渋り」に対する助言や支援

令和2年9月17日(木)

コロナ禍の緊急事態宣言が明けた6月中旬頃のことです。

保育園の年中クラスに通う女の子とお母さんが相談にやって来ました。相談の予約を入れる時に保健師が少し事情を伺っていたところ、「娘が保育園に行きたがらなくて困っている。」ということでした。相談室に来た女の子…さくらちゃん(仮名)と言います。さくらちゃんは、おかっぱ頭の利発そうな子で緊張したような、困ったような表情でお母さんの後ろからついて来ました。

まずは、これまでの経過をお母さんからお伺いすると、小学生のお姉ちゃんと1歳の弟がいるきょうだいの真ん中で、さくらちゃんは1歳前から同じ保育園に通っています。これまでの発達は順調で、ほとんど心配したこともなかったそうです。お母さんは普段、フルタイムでお仕事をされており、緊急事態宣言中は在宅勤務になっていたため、自宅で子ども達の世話に明け暮れていたこともお話ししてくださいました。

さくらちゃんの保育園が再開して、初めの週は変わりなく登園していましたが、翌週の月曜から保育園に到着すると激しく泣き叫んで、車から降りようとしないことが続きました。心配した保育園の先生がお迎えに行くと、渋々車から降りて自分のクラスに行くそうですが、その後は何事もなかったように過ごしていると聞いていました。保育園にお迎えに行った時も自宅に帰った後も、特に変わりなく、心配したお母さんが保育園のことを、あれこれさくらちゃんに聞きますが、お友だちとも楽しく遊んでいる様子で、保育園で嫌なことがないのに、また翌朝、激しく泣き叫ぶということでした。

さくらちゃんのこころに何が起こっているのでしょうか…。

さて、お母さんが話をし始めると、その隣でさくらちゃんは口を真一文字に結んで、お母さんの顔をちらちらとうかがっていたため、こちらからいくつか遊びを提案すると「ままごと」にうなずいたので、さくらちゃんとままごとをしながら、お母さんの話を聞いていました。

さくらちゃんがままごとで緊張がほぐれたのを見計って、「お姉ちゃんは学校に行った?」や「弟のお世話はするの?」など、家族のことを聞いていきました。初めは首を振って応えていましたが、徐々に「コロナでお外出られんかったけ…」とコロナ禍での話をしてくれました。もしかして…と思い、「さくらちゃんさ、今日お母さんと2人で保育園お休みして、お出かけ出来て良かったね。」と話しかけると、はっとした表情で私を見てにっこり微笑んでくれました。

さくらちゃんは乳児期から保育園で過ごし、お母さんが忙しいことを理解しながら育ってきたのだと思いますが、このコロナ禍によって家族でゆったり過ごす時間が増えたことが、とても嬉しかったのではないかと思います。その中で、「お母さんを独り占めしたい」という気持ちが芽生えて、それを上手く伝えられず泣いていたのではないか。そのことをお伝えしたところ、お母さんは呆気に取られた表情で「私ですか…」と苦笑いされました。今日こうやって2人きりでお出かけしたついでに、ほかのきょうだいには「秘密」の時間を過ごすようすすめて、2人は手をつないで退室されました。後で保健師が状況を確認したところ、さくらちゃんの行き渋りはぴったりとなくなったそうです。

コロナ禍において、生活環境が大きく変わり、子どもも大人も、目の前の変化に合わせることにエネルギーをたくさん使うようになり、こころに余裕をもたせることが難しくなっているのではないかと感じることが増えています。こころのエネルギーは、見えにくいものですが、「元気や意欲のもととなる安心感や楽しい体験、誰かに認められる体験」で高めることが出来ます。子どもたちのこころのエネルギーの充電は、何より安心する家族と楽しく過ごすこと…そんなことをさくらちゃんに教わったような気がしました。

みなさんのこころのエネルギーは、どこで充電されているのでしょうか。

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