どうせ 僕はできんのやもん

平成24年6月2日

「どうせ、僕はできんのやもん」これが、彼の口癖でした。友達が竹馬に次々と挑戦をする中、諦めと悲痛な叫びを聞いた思いで、胸が張り裂けそうになりました。
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* 4才児クラス アレルギーがひどく喘息が出たり夜中に発作を起こしたりすることもある。
   除去食は、卵・牛乳・乳製品・乳化剤・油…
* 保育園では 除去食の献立を作ってもらい食べる。
* 時々、よその家でチョコレートなどを食べ発作や喘息を起こす。

アレルギーで「どうせ僕はできない!」という心が育ってしまうのか、そう思うとたまらなくなり、何か手段はないものかと模索を始めました。まずは、家庭での健康状態のデータの記録、アナフィラキシー(※)時の対処等など、医者や助産師、薬剤師に栄養士、いろいろな方にアレルギーについてご指導していただきました。その中で、除去という発想から転換して少しずつ抗体を作るという方法、つまり「一口ずつ卵を食べて体を慣らす」という手法を取り入れてみました。「どうせ、僕は…」から脱却できるのなら、最善の注意を払って取り組んでみる価値はあるとご両親と考えました。
体調の良い11月。お昼ご飯の献立は、豆腐ハンバーグ、青菜のおひたし、にんじんグラッセ、かき卵汁。いつもなら、かき卵汁はわかめと麩いり汁でした。「みんなー、今日はH君が卵を初めて食べまーす。さあ、この卵はHくんのどこのエネルギーになるかな?」すると子ども達は、「H君すごい、一緒にマラソン走ろうや」、「竹馬乗ろうや」、ジーッと見つめられつつ、ほんの一口のかき卵汁。ほんの一口のかき卵汁ですが、H君は、「なんか強くなった気がする!」と答えました。「わーぃ。すごい!」クラス中が大騒ぎです。
本当にたった一口のかき卵汁でしたが、H君は、目を輝かせて午後から竹馬を始めました。倒れても倒れても、何度も何度も竹馬の練習です。翌朝、H君が「先生、竹馬していいですか」と目をキラキラ輝かせながら登園してきました。友だちは、「H君、竹馬してていいよ。僕がおまめさんに水やりしとくよ」、また他の友達も「僕だって、H君の代わりに掃除するよ」と言ってくれました。
文章では書き表せない友達の友情、そして初めてやる気になって目の色を変えて頑張るH君にクラスが一体となって応援しつつ、他の子どもたちも頑張り始めました。
医学的に言えば体を慣らしてしまおうという「アレルゲン免疫療法」に近いのでしょうか。(最近では「急速減感作療法」など1週間の入院で原因アレルゲンを体内に入れるという治療もあるようです)
初めはたった1口のかき卵汁から、始まったこの取り組み(治療)。
おかあさんは、昼休みに園から連絡があるのではないかとドキドキしていたそうです。結局、お母さんへの連絡は1回もすることなく、もちろん救急車のお世話になることもなく1年5か月が過ぎたのです。
体調に気づかい長丁場の1年と5か月でしたが、卒園時は、生牛乳のみが除去のH君でした。
心が変わる、その気になって初めて子どもが育つ、このことを私自身が大きく学びました。 
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アナフィラキシー:特定の起因物質により生じた全身性のアレルギー反応
(出典:Yahoo!ヘルスケア.家庭の医学)

 

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