1「不便な暮らし」から得られるもの

令和元年12月26日

 まきでお風呂を沸かし、羽釜でごはんを炊く。

 「ごはん、上手に炊けとうやん」「みそ汁の味噌、もうちょっと多くてもよかったかもね」とにぎやかに話しながら夕食をとる子どもたち。「今日のお風呂めっちゃぬるかった」という子がいれば、「えー、私の時は熱すぎて入れんかったよ」という子も。

 これは、私たちのNPOで行っている「くらしまるごと体験宿」という通学合宿の1コマ。同じ小学校の子どもたちが、5泊6日の「ちょっと不便な昔の暮らし」をしながら通学します。参加する子どもたちのほとんどは、まき割りに必要な鉈(なた)や鋸(のこ)を使ったことはありませんし、火おこしどころかマッチを使うのも初めてという子もいます。

 ですから、プログラムの初日は大変です。道具の使い方から教えていくのですが、これにはかなり手間がかかります。作業ひとつずつを言葉と動作で伝える。教える側の工夫と根気もいりますし、うまくなる過程を見守る忍耐も必要。大人が自分でしたほうがよっぽど早くてラクです。

 しかし、こうしたプロセスを経ていくと、子どもたちとの関係はぐっと近くなります。つい数日前までは知らなかった大人に、普段の学校のことや考えていること、悩んでいることなどを話してくれるようにもなってきます。

 また、子ども同士のコミュニケーションも上手になります。声をかけあいながら活動するようになったり、相手が困っている時には手を貸したり、全体の状況を見て先回りして動いたり…。

 便利な世の中になり、こうした体験活動は、大人があえて「場」を用意しなければ、子どもたちは体験できない時代となっています。親も子どもも忙しい時代ですから、大人はついその手間を惜しんでしまいがちです。しかし「手間を省く」ことによって、コミュニケーションの機会が失われていくのは非常に残念に思えてなりません。暮らしの中には「体験」があふれています。「何か体験活動をさせなければ!」ではなく、暮らしの作業1つ1つを子どもと一緒にしてみてください。それだけでも大人と子どもの関係を深める貴重な時間が増えるように思います。

 

< 前の記事     一覧へ     後の記事 >